「やった、一番乗りみたいねっ」


柱合会議が行われることとなった今日、鬼殺隊本部――産屋敷邸に一足早く辿りついたのはどうやらなまえだったらしい。ふふふ、と笑みをこぼしながらきょろきょろと辺りを見回す。失礼だとわかっていながらも、お館様の屋敷だとわかっていながら見ないという選択肢はない。散策はしないから……! と心の中で言い訳しつつ眺めていれば、突然肩をぽんと叩かれ大げさに驚きながらも振り向いた。


「伊黒さん……!」


何をしてたんだ、と目線から言いたいことが伝わったなまえは身振り手振りを加えて説明した。他の者がそんなことをしていたとあらば「不躾な」と白い目を向けるであろう伊黒は、目を細めて頷くだけだ。この男、なまえには激甘なので。


「何か発見したものはあったのか」
「緑が生い茂っていて、きれいなところだって改めて感じたわぁ」
「なまえのほうがきれいだ」
「え? っふふ、やだわ伊黒さんたら」


頬に手を当てながら恥ずかしそうに俯くなまえに、伊黒は素直にかわいいと伝えた。本当のことであることも。この男、なまえのことが大好きなので。


「私は三番目でしたか。残念ざんねん」


まあ、二人だけの時間が終わるだろうことはわかっていた。だがまさかこんなに早く、それも蝶の髪飾りをつけた柱が次に来るとは思わないじゃないか。


「……胡蝶」
「しのぶちゃん! 久しぶりねっ。元気だった?」
「ええ。なまえさんも元気そうで何よりです。伊黒さんこんにちは」
「………」


こくりと頷くのをしっかり返事と捉えたしのぶは、大して気にした様子も見せずなまえに向き直る。しのぶも伊黒も普段仲が悪いというわけではない。会えば多少なりとも話すし、お互いに認め合ってもいる。だがなまえという存在一人で、二人の仲は南極も驚くほど冷え切るのだ。


「なまえさん。お館様がいらっしゃるまでの間私とお話しませんか?」
「それは、いいのだけど」
「おい胡蝶。今なまえは俺と話していたんだが」
「あらぁいいではありませんか。伊黒さんはいつものように木の上にどうぞ? 私は地面を踏みしめながらなまえさんとおしゃべりしていますので」
「いつも木に登っているわけではない」


そうでしたか? 笑顔で伊黒を煽りまくるしのぶに、なまえはあわあわと見守ることしかできない。変に口出しをして更に言い合いがヒートアップした過去があるために無理に入れないのである。


「なまえさんと伊黒さんは私と違って結構な頻度で会っているではないですか」
「だからなんだと言うんだ。俺はまた会えるのだから身を引けと? 冗談だろう。これだから胡蝶は」
「私が? なんです?」
「うううなっ仲良くしてーっ」


バチバチと火花が散っているように見えるのは気のせいだろうか。怖すぎて既に半分涙目だ。


「今度どちらがなまえさんの隣に立つのが相応しいか、勝負でもします?」
「いい提案だ。さすがにお館様のお屋敷で物騒な真似はできないからな」
「え!? け、けんか? 隊律違反よ!!?」
「大丈夫です、腕相撲あたりにしますから」
「物騒ではないんじゃ……?」


結局この場を収めてくれたのは四番目にやって来た宇髄だった。後日本当に腕相撲大会が行われることになるのを、なまえはまだ知らない。



ほどいた荷物が馴染まない



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