「今日も働いたなぁ! 腹が減ってしゃーないわ!」
「もう食べてるのに……?」
「せやから食べとるんやろ。まだまだ足りひん! なまえも遠慮せんと食べな痩せてまうで」
「むぐ……ん、おいしい……」


ファットガムに無理やり詰め込まれたたこ焼きを咀嚼しながら、なまえはひとまず口を閉じた。きちんと冷めたものを口に入れてくれるあたり優しい。でも一応今は仕事終わり――もっと言えば事務所帰りの道中なので、こうやって食べ歩きするのはいけないことだと思うのだけれど。しっかりごくりとたこ焼きを飲み込みそれを伝えようとするが、今更やろ! と笑われる未来しか見えないため黙っておいた。食べてしまった時点でなまえも共犯である。


「変なところで図太くなったなぁなまえは。誰に似たんやろ」
「……ファットです」
「あっはは間違いないわ!」
「あの、もしかして酔ってます?」
「パトロール中に飲むわけないやろー!」


飲んでそうなテンションという皮肉に決まっている。ファットは自分とくだらない話をしてくれるのが嬉しいのかにっこにこだ。愛嬌のあるフォルムのおかげで笑顔も増してかわいく思えてくる。赤くなりそうな顔を隠すべく視線を逸らすと、いつの間にか事務所へ到着していたようだった。被っていたフードを取ると同時に頭に置かれた手にぱちりと瞬きを繰り返す。見上げれば「今日もよう頑張った」と微笑むファットがいて、まさか褒められると思っていなかったなまえの頬に赤みが差した。結局こうなるらしい。


「恥ずかしがらんでもええのに、かわいいなぁなまえは」
「みみみないでたすけてミリオ」
「いやここにおるわけないやん。おったら怖いで」


咄嗟に口からこぼれ出た友達の名前にしっかりと突っ込んでくれたファットは、なまえの手を握りながら奥へと進みソファへ腰かける。自然となまえに隣へ座ることとなり、隙間などないくらいにくっついた体が脂肪に埋まりそうだ。


「もうほんま癒し枠やでなまえは。そのまま変わらんでな」
「そんなこと思ってるのファットだけだし、変わりようもない……」
「みんな思っとるよ言わんだけで。切島くんとかええ例ちゃう?」
「? ……もっとないです」


一瞬むっとした表情を見せたファットだったが、すぐに破顔すると「まあなまえのかわいさは俺が知っとればええか!」なんて幸せそうに話しかけてくる。しばらく密着していたがファットは突然まずい! と大声を上げ一人分の距離をあけ始めた。


「これセクハラちゃう!? 出るとこ出られたら負けるやつや!」
「い、今更どこにも出ません……!」
「えっ過去には訴えよう思ったことがあったってこと?」
「違います……す、好き同士なら、問題ないってこと……です」


その言葉にぽかんと口を開け固まったファットの体から力が抜けていく。ソファに全体重を預けてもびくともせず、さすが特注で作ったらしいソファだとなまえは感心した。


「そやなあ……好き同士なら、なんも問題あらへん」
「……うんっ」


控えめな笑みを浮かべるとファットも口角を上げる。なまえからそっと抱きしめれば慌て始める彼に嬉しくなった。だって自分の行動で好意的な反応が返ってきたのだ。喜ばないわけがない。


「もー図太くなりすぎやで」
「そんなふうにした責任取ってください。いいです、よね……?」
「責任しか取らんわ任せとき!」


ファットの脂肪が心地良くてなまえは目を細める。せめてもう少しだけこの時間が続いてほしいと思うのは贅沢なことだろうか。「もう少し」つい呟いてしまった言葉にも笑いながら「もちろん」と返してくれたファットに、彼も同じことを思っていたことを察した。



生者に捧ぐ歌



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