数日前にミリオがお茶目で買ってきてくれた棒つきのキャンディを舐めていたなまえは、テレビを呆然と見つめながらぽとりとそれを落とした。片づけなきゃ、という冷静な思考。それどころじゃないという慌てふためく思考。最終的にどちらの思考も放り、現実を受け止めた。


「え? 聞こえなかった? ……違くて、もう一度言ってほしい? あーうんうん、わかってるんだよね。テレビ的な都合で、大事なことは何度も言ったほうがいい――余計なことはいい? えー余計なことではないと思うんだよね!」


今テレビの生放送で記者会見らしきものをしているのが自分の恋人であるミリオだ。ついでに言えば数時間前に何時に何チャンネルをつけておいてほしいとメールを送ってきたのもミリオである。


「えーっと! プロヒーロールミリオン、同じくプロヒーローのなまえと結婚することになりました!」


カメラのフラッシュでテレビが点滅し、左端に注意書きのテロップが遅れて表示される。なるほどなるほど。自分はミリオと結婚することに……んん?


「と言っても、本人の許可は一切もらってないけどね! ははッ」


意味がわからないし笑いごとでもない。まさかのプロポーズをテレビ越しにされたなまえの気持ちを考えてほしいのだが、もう結構な付き合いなので彼の性格にも慣れてしまった。まあ、こういうことをする人だよな、と諦めていると言ったほうが正しいか。


「なまえ、見てる? そういうわけだから、結婚しよう!」


両手をぶんぶん大きく振りながらカメラ目線で歯を見せて笑うミリオに、なまえはぽかんと口を開ける。現実を受け止めたはいいがまだ体は追いつけていないらしい。ようやく上手に呼吸ができるようになり、通知が鳴り続けるスマホに気づく。きっと高校からの仲間たちだろう。あとできちんと返信しなくては。


「絶っ対幸せになろうねっ」


幸せにする、じゃなくて、幸せになろう。ああ、これからも一緒に歩んでいけるんだ。なまえは我慢できずに声を上げて笑う。なんて大胆なプロポーズなんだ。しばらくニュースはこの話題で持ち切り間違いなしである。


「うん。幸せになろう!」


画面越しなのに、まるですぐ目の前にいるかのようだ。なまえがグッと拳を握りしめると、ミリオも拳を握り返してくれる。

きっと二人には、明るい未来しかない。



沈むように幸せに



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