君と添い遂げたい。幸せにする。そう言って腰から上を九十度に曲げ指輪を差し出した飯田の顔の赤さを、昨日のことのように覚えている。

お互いの家族や、高校の同級生や恩師のみを集めた少人数の結婚式をすることとなった。真っ白なウェディングドレスを着る日が来るとは思ってもみなかった。試着したときも思ったけれど、ある意味馬子にも衣裳だ。椅子に腰かけたまま鏡に映った自分に自嘲の笑みを浮かべていると、ノック音が響き控えめな返事をする。入室前の声かけを忘れず入ってきたのはタキシードに身を包んだ飯田だ。


「天哉くん。もう少しだね。ちょっと緊張してきちゃったよ」
「………」
「……天哉、くん?」


びしっと肘から四十五度の角度で腕を止めた飯田は、なぜか口を開けぽかんと固まっている。おーい、と呼びかけてみるが反応がない。一人では歩けないために椅子から立つわけにもいかず困り果てていれば、たっぷり時間をかけてようやく飯田が我に返った。


「すすすまない! 俺としたことが……!」
「大丈夫だけど……ふふ。もしかして見惚れてくれたの?」
「ああ……きれいだ」
「えっ」


頬を染める飯田の熱が移ったかのようになまえの顔も色を変える。


「試着したときも一緒にいたのに……」
「それは……」
「でも、ありがとう。何度言われても嬉しい」


今から式を行う。その事実に結ばれたことを改めて実感する。ヒーローという職業柄、きっと一緒に過ごす時間は他の夫婦よりも短いだろう。だが一緒に過ごしたいがために結婚するのではないのは飯田も同じなはずだ。


「俺が、なまえくんを幸せにできるんだな」


そう。――幸せになりたいから結婚するのだ。







飯田の手によってベールが上げられ、先ほどまで閉ざしていた瞳に彼を映す。入場の際拍手をしてくれていた周りの者も、今はただ二人を祝福しつつも見守っていた。


「飯田くん。あのね、言い忘れてたことがあるんだけど」
「……?」
「私、今結構幸せなの」
「うん」
「だから……もっともーっと幸せにしてくれないと、多分、満足しないと思う」


きょとり。目を瞬かせる飯田は、困るどころか任せろとでも言いたげに微笑んだ。


「もちろんだとも。君だけじゃなく、二人で幸せになろう」
「――はい」


今この瞬間だけは、二人だけの世界だ。



その感情と眠ったまま



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