「障子……部屋に来る前にリンゴ切ってきた。食べるか?」
「なまえ……ありがとう」


両手でリンゴの乗った皿を持ったなまえが障子の部屋に足を踏み入れる。学校も何もない休日の一時、なまえと障子はいわゆるデートの約束をしていた。とは言っても、外出先の提案をしてもお互いが首を傾げてしまい中々決まらない。そこで妥協案としてどちらかの部屋でゆっくり過ごそうということになったのだ。話し合った結果障子の部屋に決まり、部屋主はなまえをベッドの上に座らせる。椅子に腰かけた障子はなまえが持ってきてくれたリンゴを一口かじるのを見て自分も口を複製しリンゴを食べる。会話はなく咀嚼音だけが響くが気まずい空気はない。いつもこんな感じだ、今更気まずいと思うこともないのである。


「……つまらないだろう」
「? いや、別に……」
「悪いな、男ならもっと喜ぶようなプランを考えるべきなんだが」


なまえはすぐにデートの内容のことだと察することができた。ふっと笑って立ち上がり、複製の口をつんと指で触る。なまえは見上げた障子に優しく語りかけた。


「障子は楽しくないのか?」
「……楽しい以前に、なまえといられればそれでいい」
「私も同じだ」


黒影が出たそうにしているのを感じて出してやれば、「ファイト!」と障子に言うだけ言って戻ってしまった。何だったんだと思っていればぐいっと腕を引かれてなぜか膝の上に横向きで座らされる。


「っ!? し、障子っ?」
「………」


突然のことに戸惑い焦りながら障子を見てもマスクで隠された口から言葉は発されることはない。ひとまず目をじっと見続けていれば障子が小さく息を吐き、ようやく口を開いてくれた。


「なまえをこんなに近くで見るのは久しぶりだな」
「……そうだね」
「照れると体温がすぐ上がる。だからなまえはわかりやすい」


うるさい、と額をこついても目を細めるだけの障子を軽く睨む。しばらくそうしていたが、どちらからともなく笑いが起こる。なまえを膝に乗せたまま「次はなまえの部屋でゆっくりするのもいいかもしれないな」と障子は話す。黒で覆われた自分の部屋を思い出したなまえは「片付けたら……」と返したのだった。


「障子……好きだ」
「ああ、俺もなまえが好きだ」


ぎゅうと抱きしめられてなまえは心が温かくなる。心地よさに目を閉じてなまえは障子にもたれかかった。



しばし永遠を待て



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