※死穢八斎會仲良しifです。短い。
※皆おつむが弱い(特に治崎)
※深く考えずお読みください







「治崎……おめェ」


治崎の額から冷や汗がこぼれ落ちた。組長が腕を組みながら見つめるその先にいるのは孫であるなまえだ。窃野の腕に抱かれ彼の服をきゅっと掴んだなまえの目が不安そうに伏せられる。組長は指で眉間を押さえながら大きく息を吐いた。そして一言。


「よくやった」


蚊の鳴くような声で呟いたあとなまえの頭を優しく撫でる。「部屋に戻る」と片手を上げて去っていく組長の姿が見えなくなってもしんとしていた空気は、治崎の小さなガッツポーズにより途端に賑やかとなった。なまえも心なしか表情が明るくなり瞳がきらきらとした気がする。


「よかったですねぇなまえ嬢。その服かわいいってことですよ」
「うんっ、おじいちゃん撫でてくれたの……!」
「廻もよかったですね」


窃野の言葉に満面の笑みで返したなまえの横で、玄野が治崎へと声をかけた。小刻みに震えていた治崎は手袋越しに額を押さえると深呼吸を繰り返している。ようやく気持ちが落ちついたのかやけにキリッとした表情を玄野へと向けた。


「なまえがかわいいのは当たり前だろうなぁ玄野」
「自分の見立てた服が組長にボロカス言われたらどうしようって不安な顔してたのは廻でしょうに」


くっ、と眉をひそめた治崎は改めてなまえを見つめる。襟元や袖にフリルがあしらわれた紺色のジャンパースカートは、なまえのために作られたものだと一目惚れして買ったものだ。想像以上に似合っていたために、これを着たなまえの姿を組長に見せてやりたいという考えに至った。組長が大好きなのに話題がない、と泣きそうな表情で語っていたなまえを思い出す。次に会うとき今日着ている服を着ていけばとりあえず話題にはなるだろう。

ひとまずこれだけは言いたい。ボロカスに言われなくて本当によかった。


「あの……」
「?」


安心しきって顔を覆っていた治崎が下からの声に反応する。顔を向けてみれば窃野の腕から下りていたなまえがもじもじしながら見上げている。こちらから話しかけることはあれど、なまえのほうから声をかけられるなんていつぶりのことか。冷静になれと暗示をかけながら「どうした」と膝を折り視線を合わせてやる。


「あ、うんと……」


指を絡ませながら何度も視線を合わせては逸らすを繰り返している。本当に同じ人間なのかとなまえのかわいらしさに胸が痛くなってきたとき、ようやく勇気が出たらしいなまえが拳を作り大きな声を上げた。


「服、かわいいの、ありがとうっ」
「! なまえ……」


目を輝かせ言えた! と玄野を振り返る姿は心から愛しいと思う。どういたしましてと返す自分は上手く笑えていただろうか。窃野が笑いを堪えてるところを見るに顔がだらしなく緩んでいたに違いない。あとで覚えていろ。


「廻お兄ちゃん、優しくて大好き!」


今しがた窃野に抱いた怒りはどこへやら。名前呼びとまさかの大好きに致命傷を与えられた治崎はしばらく悶え続けたという。どうしようもない話である。



額縁のトワイライト



戻る