*映画「ヒーローズ:ライジング」ネタ
*未来・プロヒーロー設定。捏造しかないです



「いやあ、素晴らしい活躍でしたね。大・爆・殺・神ダイナマイトは」


爆豪はモニターの映像と共に聞こえた自分のヒーロー名に反応してそっと見上げた。つい先日強盗を捕まえたときのことが取り上げられていたらしく、顔写真と共に爆豪の活躍が映っている。


「まさに秒殺でした。あとからやって来たデクも驚愕していたそうです」
「これからの更なる活躍に期待したいですね」


キャスターがにこやかに言葉をかける中で、一人のコメンテーターはでもねぇと手を組んだ。


「人相と態度が問題ですよね」
「え?」
「敵っぽいヒーローランキング二年連続一位って、ヒーローとして誇らしいのかどうか。一部ではファンサービスが酷いと噂になっていますし。ヒーローとは何かを今一度彼には考え直していただかないと」
「あ、そ、そういう意見もあるんですね! 続いてのニュースです!」


映像が切り替わったモニターを見つめ、爆豪はハッと鼻で笑った。言いたい奴には言わせておけばいいのだ。今更この性格を直すことなど不可能に近い。だから爆豪はヒーローとして一人でも多くの敵を叩きのめし認めてもらうしかないのである。ファンサービスが酷いなんて噂は爆豪自身何度も聞いてきた言葉だ。同期である緑谷たちにも色々言われているが頑張ってと言われて手なんか振るキャラでもない。めんどくせえなあとポケットに手を突っ込んで歩みを再開しようとすれば少しばかり高い声が爆豪の名前を呼んだ。


「敵っぽいヒーローランキング二年連続一位おめでとう、爆豪」
「あ?」


誰だ本人にケンカを売る度胸のある奴は、と振り向きながら睨みつけた爆豪はぴしりと固まり一人の少女を見つめる。腰に手を当てふふんと笑う少女には見覚えがあった。横に同業者の緑谷がいたのも驚いたが、まさかまた出会うことになるとは。雄英高校の制服を身に纏った少女、過去に那歩島で出会った島乃なまえは偉そうに胸を張った。







「ナンバーワンヒーローを超えるヒーローになるって言ってたじゃない。よかったわね爆豪。このままランキング独占しなさいよ」
「おい覚悟はできてんだろうなあ? ああ?」
「か、かっちゃん! 相手は子ども! 高校生!」
「うっせえデク! 大体なんでテメェがこのガキと一緒にいるんだよ!」


緑谷は行きつけの個室付きのカフェで胸倉を掴まれ、爆豪に慌てて説明した。なまえと出会ったのは本当にたまたまだったらしい。路地裏で男に絡まれているところを助けてくれたのが緑谷で、偶然再会したのがなまえだった。現在雄英高校のサポート科に在学しているというなまえはやるじゃないデクとパフェを頬張りながらウインクする。


「私を助けるときのデク、かっこよかったわよ」
「あはは……ありがとうなまえちゃん」
「路地裏なんかに一人でいるから絡まれるんだろ」
「近道だったのよ! 仕方ないじゃないっ」
「まあまあ」


そのあとはしばらく会話に花を咲かせた。弟の活真はすっかりファンとなった緑谷の背中を追いかけて、雄英高校ヒーロー科を目指していること。家族三人で今も仲良く暮らしていること。その他も色々と。頬杖をついて黙って聞いていた爆豪はため息をつくと立ち上がった。なまえが小さく肩を震わせて爆豪を見上げてくるのに内心なんだ? と不思議に思いつつ、「どうしたのかっちゃん」と尋ねる緑谷へ「便所くらい行かせろや」と吐き捨てる。もうあんなに大きくなっていたのか、と爆豪はなまえの成長した姿に頭を掻いた。

お手洗いを済ませて戻った爆豪の個室の戸を開ける手を止めたのは緑谷の言葉だった。


「ねえなまえちゃん。かっちゃんに会わせてって言ってたけど、何か伝えたいことでもあったの?」


てっきり緑谷が家の近くまで送るよと申し出て帰り道の中で爆豪と会ったものと思っていたが、どうやら自分に会うために探していたらしい。戸に手をかけたまま耳を傾けていればなまえの「会いたかっただけ」と恥ずかしそうな声が聞こえてくる。


「ぷ、プロヒーローだし、そう簡単に会えるわけじゃないから。デクに頼めば仲良いし会わせてくれるかなって」


仲良くねえわと心の中での否定を忘れない。「利用したみたいになってごめん」と素直に謝るなまえを褒めつつ緑谷は言葉を続けた。


「ふふっ。なまえちゃん。会うだけでいいの?」
「……ほ、本当はサイン、ほしいけど」


話についていけず爆豪は一人首を傾げた。なんでなまえは自分に会いに来てサインまでほしがっている? まさか、と思う爆豪の予想は当たった。


「鞄から覗いてるタオル、かっちゃんとコラボした会社のスポーツタオルだよね」
「え!? ちょ! なんで」
「なまえちゃんなんでサポート科に入ろうとしたの? っていう質問にかっちゃん見てたよね。活真くんを支えたいっていう理由もあるかもしれないけど、もしかして将来かっちゃんのサポート用アイテムとかコスチュームとか提供したいって思ってたりするのかなって」
「っ、あ、あー! っなによ! 別にいいじゃない爆豪が好きなんだから! 雄英に入ったのだって爆豪の母校だからよ! それが何!?」
「熱烈だなあ」


ばっ、と思わずしゃがみ込んだ爆豪は床を見つめながら瞬きを繰り返した。


「確かに爆豪は敵っぽいところあるし、ファンサービス最悪な男よ」


でも。顔が見えずとも今なまえがどんな表情をしているのかわかった爆豪は口元を押さえた。


「爆豪は誰よりかっこいい、私のヒーローだから。私の中のナンバーワンヒーローはいつだってダイナマイトしかいないの」


なまえの好きはヒーローとして、という意味だけなのかもしれない。だがそれだけじゃない想いも声色に秘められているのが伝わってきてしまい、爆豪は項垂れて腕の中へ顔を隠した。あんなガキ相手に嘘だろと思いつつも言うべき言葉は決まっていた。


「私は口も態度も悪いファンサービスも最悪な爆豪が好き――」
「なまえ」
「ぎゃー!!」


バン、と勢いよく戸を開ければなまえは叫びながら隅へと一瞬で体を移動させた。顔を真っ赤にさせ顔を覆ったなまえは「ば、ばくご」と指の隙間から爆豪を見る。


「おかえりかっちゃん」
「……デクぅ」
「ひい」


にこりと笑う緑谷に自分が戸の前にいることをわかっていたのだろうと察した爆豪はとりあえず彼に威嚇しておいた。なまえの前で膝を折った爆豪は「ありがとよ」と彼女にだけ聞こえるような声でお礼を伝える。他人の意見で自分を変えるべきか迷うだなんて爆豪らしくなかった。え? と呆けるなまえの鞄をちらりと見れば確かにタオルが入っている。視線の先に気づいたなまえが慌てたように隠すがもう遅い。手のひらをなまえに向けた爆豪はほれ、と催促した。


「出すなら出せ。俺は気が短えんだよ」
「な、なにを」
「タオルとペンだよ。サインいらねえんか」


聞かれていたのかと耳を赤く染め上げたなまえが震えながらタオルとペンを差し出した。感動したようにサインの書かれたタオルを眺めたあとで、なまえはそのタオルをぎゅっと抱きしめる。


「一生の宝物にするわ、爆豪! ありがとうっ」
「……そうかよ」


フッと口角を上げた爆豪になまえは固まって赤らんだ顔のまま唇を噛みしめた。そんななまえに言うべき言葉を伝えるべく口を開く。


「早く成長しろ、クソガキ」
「は!? いきなり何!」


だが突然のクソガキ呼ばわりになまえは怒って片手を上げた。もう片方の手はきちんとタオルを抱きしめている。爆豪は「なまえ」ともう一度名前を呼んでなまえの頭にぽんと手を乗せた。


「そんではよ高校卒業しろ。仕方ねえからしばらくフリーで待っててやるよ」
「……こ、これ、ファンサ?」
「あ? 俺がこんなこと誰彼構わずするような奴だと思ってんのか」


気づいたらお金を置いて緑谷はいなくなっている。お互いの速い鼓動だけが個室に響き、絡みあう視線だけで蕩けそうだった。



ハロー、ハロー、届きますか?



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