「デクさん」
「なまえちゃん?」
「あのね、デクさんのこと考えると胸がドキドキさんなの」
「そっかぁドキドキさん……かぁ!?」


膝の上に座ったなまえが自分を見上げながらそんなことを言うので緑谷は変な声を上げた。いやいや落ちつけ……と緑谷は咳払いをする。なまえはまだ小さいのだから、そう、きっと自分を敬愛してくれているんだ。そうに違いない。緑谷は深呼吸して心を落ちつかせると、にこりとなまえに笑いかけた。


「ドキドキさんなんだね、なまえちゃん」
「うん……この気持ち、私おかしいかな……デクさんにドキドキしちゃだめかな」
「そんなことないよ。僕すっごく嬉しい」
「! ほんと……?」


頷くと癒してくれるようなふわふわとした笑みを浮かべてくれるなまえ。するとなまえがくるりと体の向きを変え緑谷と向かい合う形になった。緑谷が小さく首を傾げ優しくなまえちゃんと言うとぐっとなまえの顔が近づく。


「デクさん大好き」


目の前にいるなまえ、そして鼻に温かい感触。かわいらしくはにかむなまえにキスされたと気づくのに時間を要してしまった。


「……なまえ、ちゃん」
「ちゅーってね、大好きって気持ち伝えるのにいいんだって教えてもらったの」


十中八九ミリオの仕業としか思えず緑谷は頭を抱えたくなった。ははっと爽やかに笑う脳内のミリオ。純真無垢でなんでも信用してしまうんだからこういうことをむやみやたらに教えるのはやめてほしい……!


「あながち間違ってはないところが訂正しづらい……っ」
「……デクさん、私の好きはいや……?」


上目遣いで心配そうに覗き込んでくるなまえに緑谷は目を瞑り唸る。かわいい……と思っただけだったがなまえは別の意味に捉えたらしい。しょんぼりしてごめんなさいと消え入りそうな声で謝った。それに緑谷が慌てて嫌じゃない! と誤解を解く。


「ごめんね。本当に嬉しいんだけど……さっきのは、なまえちゃんが将来本当に好きになった人のために取っておいたほうがいいよ」


なまえの頬を両手で包み額をくっつける。子ども体温は温かいなあなんて思っているとぷくーと手で包んでいたなまえの頬が膨らんだ。


「大きくなっても、デクさんのこと好きだもん……」
「なまえちゃん……!」
「デクさん私のこと好き?」
「大好きです……!」
「……うれしい」


きっと大きくなったら新しい恋を始めるだろう。緑谷はよしよしとなまえの頭を撫でながら悠長に考えていた。将来その考えが現実とならなかったことに緑谷は後悔すると共に嬉しさを感じることとなる。



待てど暮らせど地下の国



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