「よい子は寝る時間!」


夜、一人だというのにピシッと手をロボのように直角に動かしたなまえは眼鏡を外しアラームをきっちりとセットした。これで明日の朝もばっちり起きれるだろうと電気を消そうとするとスマホの着信音が鳴る。こんな時間、というほど遅くないが誰だろうと確認すれば轟焦凍の文字が表示され固まった。ごくりと唾を飲み込みおそるおそるといった様子でスマホを手に取る。深呼吸をしてから通話をタップし耳に近づけた。


「轟くんっ、大体一時間ぶりかな!」
「そうなるな」


電話越しの声はいつも聞いているものとは違うし、耳元で声がするというのは変な感じだ。熱い頬を手でパタパタと冷ましながらベッドに腰かける。


「どうかしたの? 轟くんが電話なんて珍しいね。宿題でわからないところでもあったの? 私がわかる範囲でなら問題を言ってくれれば――」
「……なまえの」
「うん?」


轟の落ちついた声は耳に心地よくて子守唄を聞いている気分になる。目を閉じ耳に意識を集中させていると言葉の続きが届いた。


「なまえの声が、寝る前に聞きたくなった」
「えっ」


スマホをベッドに落としてしまい、なまえ? と轟の心配する声が遠くで聞こえる。ベッドの上に寝転がり顔を手で覆った。嬉しすぎる……。今のニヤニヤした顔は委員長としてやってはいけない顔だろう。震える手でなまえはスマホを再度耳に当てごめんなさい、と謝罪した。


「わ、わたくしも、聞けてよかったと、思ってる……」
「わたくし」
「あ、わっ、私も! 私も轟くんの声聞けてよかった! 明日も早いっもう寝ようおやすみ!」


しまった! 普段からあれほど一人称に気をつけていたというのに! 通話をぶっち切ってしまった自分を殴ってしまいたい気持ちをなんとか抑えてベッドに横になる。まだどきどきしてる……と胸に手を当てているとメールを知らせる音が部屋に鳴り響いた。もしかしてという期待を秘めつつメール画面を覗く。おやすみ。たったそれだけの絵文字も顔文字もない四文字になまえは破顔した。明日は轟に最高の笑顔で挨拶をしよう。そう自分の中で誓いを立て、眠りについたのだった。



常夜灯を消さないで



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