「なまえちゃんも行こうよ! ね?」
「えっ?」


突然目の前に麗日の顔が現れ驚いてしまった。どうやらぼーっとしてしまったようだ。聞き返せば今度の休み午後に少しだけ息抜きとしてショッピングに行こうというお誘いらしかった。女子全員を誘っているらしく麗日だけでなく蛙吹や芦戸たちも期待に満ちた目でこちらを見つめてきている。それに申し訳なく思いながらも手のひらをパンと合わせてごめんねと謝罪から入った。行けないのだとわかると葉隠が「えーつまんなーい」と肩を落とす。


「なまえってばー付き合い悪いぞー!」
「ダメよ三奈ちゃんそんなこと言ったら。なまえちゃんも忙しいのよ」
「うー……ごめんなまえー」
「い、いいよ。悪いのは私だから。ごめんね、みんなで楽しんできて」
「謝らんでええよ!? また誘うからね」
「うん……ありがとう麗日さん」


行けないと返事をしたのに待ち合わせ場所どこがいいと思う? と話しかけてくれる女子たちに言葉を返しながら、そっと視線を逸らした。逸らした先には文庫本を読む左右で色の違う髪を持った一人の男の子。なまえは小さく息を吐いて安心する。――こちらを見ていないということは自分の言動に間違いがなかったということだ。







「別にいいぞ、麗日たちと遊んでも」
「いいの……?」


パチパチ、と数度瞬きを繰り返す。放課後二人きりの教室で、なまえはきょとんとした顔で本を読んでいた男の子……轟を見つめた。他の子と出かけることに対して嫌悪の表情を見せていた轟のことだから、てっきりダメなものとばかり思っていたのだが勘違いだったのだろうか。


「麗日たちならな。女子同士なら、別に問題ない」
「そっかあ……うん、わかった。明日行けることになったって言うねっ」


満面の笑みで返事をすれば轟も微笑で返してくれた。楽しみだなと声を弾ませるなまえに轟はだがと続ける。


「連絡はくれるか。気になる」
「はーい」
「頼む」


普通に返事をしたが、轟の言う連絡はまめにしなければいけないことをなまえは知っている。そういえば前に一度夜寝落ちてしまったときメッセージアプリの通知が酷いことになった。あの悲劇は二度と繰り返すまい。なまえはバレないよう小さく拳を握った。


「なまえ、こっちだ」
「え? わぁ!」


腕を引っ張られ轟の膝の上に横向きで座ることとなったなまえは、ほんの少しだけ頬を赤く染めた。轟よりも目線が高い位置にあるのはなんだか変な感じがする。


「……なまえ……」
「どうしたの轟くん」
「あいしてる、なまえ」
「ありがとう……私も愛してるよ、轟くん」


愛の言葉が好きから愛してるに変わったのがいつだったかはもう覚えていない。きっと人はこれを束縛と呼ぶのだろう。だが轟の愛情が人より少し重くなっただけだ。なまえは特に不便を感じていないし、轟に愛されているならいいかなとさえ思っている。轟が望むなら異性とは出かけないし、連絡だって欠かさない。


「ねえ、轟くん……ずっと一緒にいようね」
「ああ」


――ずっとだ。轟の言葉に笑みをこぼすなまえは諦めているわけでも受け入れているわけでもない。単純にお互いの愛が重すぎた、ただそれだけの話なのだ。



棘も素足に絡みたい



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