*『星も欠ければ毒になる』のつづき
*百合



「助け、来ないね。なまえちゃん」
「………」
「てかよー、なまえちゃん最近うるさくね!?」
「はい。あれからなまえちゃんの声聞いてないです」
「壊れてんだろ。いらない、殺せ」
「やです。なまえちゃんは特別だからずーっと傍に置いておきたいんです」


トゥワイスや死柄木の言葉にニコニコと笑顔で返したトガは膝を抱えて部屋の隅に座るなまえの隣に同じ格好で腰かけた。なまえを自分のものにして数日が経っているが、ヒーローが彼女を助けにくる気配はない。なまえが逃げないことからもやはり彼女は自分といるべきなのだと改めて思った。


「私に攫われて、私のものになっちゃったかわいそうななまえちゃんには、今もこれからも私しかいらないんですよ。ねえ?」
「………」
「わかってるんです。なまえちゃんが隙を見て逃げようとしてること。……あはっ、目合った…うれしーなぁ」


トガは自分の顔が紅潮していくのを感じてはぁと大きく息を吐いた。大人しくトガの傍にいれば殺されはしないと悟りじっと助けがくるのを待っていたのだろう。この人数を一人で相手にしたら勝敗がどうなるかはトガでもわかる。一人で耐えるなまえがかわいくて仕方がなくてトガはなまえの手を取り無理やり立ち上がらせた。


「奥の部屋借りますっ」
「ええ。わかりました」
「黒霧……」
「落ちついてください死柄木弔。逃がすなんてヘマはしないでしょう」
「そうじゃない。早く殺せ」
「行きましょうなまえちゃん!」


きゃあきゃあ喜びながらなまえの手を引っ張り奥の部屋に連れていくトガ。荼毘はそんな二人を見つめながらぽつりと漏らした。


「……逃げないように必死だな」







ちゅうちゅうとなまえに跨って何度も繰り返しキスをする。トガはこの瞬間がとても好きだった。このときだけはなまえの世界を確実に独り占めできる。トガ以外のことは何も考えず自分だけが存在することができる。合わさる唇の感触も吐息も全てが興奮材料でしかなかった。


「もっとキスしたいです……いいよね?」
「……っ絶対」
「はい?」
「ヒーローは、来てくれる」


……ああ、もう、本当に。


「私ね、本来好きな人は閉じ込めるタイプじゃなくてその人になりたいタイプなんです」
「は……」
「だからなまえちゃんのことだって本当はいっぱい切り刻んで、ボロボロにしたあとで血をぜーんぶもらいたいんです。だけど生かしてるのはなまえちゃんと単純に一緒にいたいからなんですよ」


すごくかわいいなぁ、なまえちゃん。トガはそう口の中で言葉を転がしてクスクス笑う。


「助けになんて来ませんし、来てもみーんな刺しちゃいます。あっ! そうだ、助けに来ないように今から梅雨ちゃんとお茶子ちゃんから刺しにいこっか!」
「え……や、やめてっ!」
「……うんうん、やだよねぇ? お友達だもんね? ……なまえちゃんが私から逃げようとしなければ刺しませんよ。逃げちゃダメです。なまえちゃんは私と一緒じゃなきゃだめ」


わかってくれるよね? そう言ってやればなまえの瞳が揺れる。ヒーローが助けに来てくれるという甘い希望はこの際どうでもいい。ひとまず今は逃げるという気持ちをなくすことが最優先であった。友達を大切にするなまえである、前みたいに遠回しではなくはっきり言えば諦めるはずだ。


「逃げようなんて、考えないでくださいね。私以外の人の名前も出しちゃ嫌です。そしたら……なまえちゃんの大切な人たち順番に刺しますから」


ほらやっぱり。なまえの目には絶望の色とトガの姿だけが映る。満足したトガはにまりと口角を上げ、不安要素が減ったと嬉しくなった。……あと邪魔をするのはなまえを助けようと奮闘しているであろうヒーローだ。もしも、なまえが自分から離れて向こうに戻ってしまうようなことがあれば。


「全部チウチウしちゃいましょうね」


だって自分を見てくれなくなるなまえなんて、きっともういらないから。



ここでは息しかできないみたい



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