「うわ」
「人の顔みてうわは酷ぇだろ」
「来んなきもい」
「悪い」
「心のこもってない謝罪すんな!」


外出中にまさか轟と会うことになるとは思わずなまえはこれでもかと大きなため息をついた。それに対して疲れてんのか? と言ってくる轟にイラつきが抑えられない。ついてくる轟を視界に入れないようにしても自分より背の高い彼が隣に来ると嫌でも入ってしまう。


「ちょっと。隣に並ばないで」
「せっかくなまえと会えたのにか」
「別に私は嬉しくないから。てかなんでここにいんの」
「見てたらなまえが外に出たからついてきた」
「見てたってどっからだよ。ほんときもい、ストーカーか」


心底気持ち悪いという表情で見つめても顔を赤らめる轟が憎らしい。好きで見つめたわけじゃないからやめろ。特に用があったわけじゃないしもう帰ってしまおうかとなまえが考えているとふと右手が温かくなった。ぎょっとして慌てて確認すれば、轟が自分の手を握っていて離そうとするも力を込められて外せない。


「やめっ急に何っ!?」
「いや……やっぱ小さいななまえの手」
「小さくない離せ!!」
「? いいだろ。何怒ってんだ」
「っこの……」


信じられない。自分にまとわりついてきてこうやって突拍子もないことを平然とやってくる轟が。そして口でごちゃごちゃ言うくせに恥ずかしがっている自分が。


「どこ行くんだ」
「……うるさい、決めてない!」
「じゃあ今から一緒にお母さんのとこ行かねえか。なまえに会ったらきっと喜ぶ」
「なんで轟の身内に会わなきゃいけないの……っ」
「お。名前呼んでくれた」
「ちょっ……!!」


ぐいぐい引っ張られていつの間にか病院に行くことが決まっているのが訳がわからない。自分と一緒にいるだけなのに嬉しそうにする轟を近距離で見続けることができなくて、なまえはそっと目を逸らした。――今日だけだと思ってしまうなまえは轟に絆されてしまっている。もちろんなまえに自覚は一切ない。そのことに気がつくのがいつになるかもわからないのだった。



虹彩のまやかし



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