「ねえねえ爆豪」
「んだよ」
「……ねえってばー」
「だから何だよさっきから」


ベッドに寝転がりながらいくら呼んでも床に胡座をかいて座って雑誌を読む爆豪がこちらを向く気配はない。高校デビューとしておさげからストレートヘアに変え、雄英高校に入学し本当に色んなことがあって。更に何やかんやあって爆豪と付き合うことになったなまえ。たまにこうして二人きりになっても相変わらずそっけない……というか、付き合い始めてからなかなか目が合わなくなったような気さえしていた。ねえねえとうざ絡みをしても睨みさえしない。暴言を吐き散らかして睨みつけてもいいからこっちを見てほしいのが本音だ。


「爆豪……私のこと嫌い?」
「……はあ?」
「こっち向いてくれないし最近学校で一緒にいても距離置かれるし……あれ、もしかして私付き合ってから何かした……?」


爆豪に文句を言う前に自分に非がある可能性を考えていなかった。寝ていた体を起こしてベッドに座り思い出してみる。きっと知らないうちに何かしでかしたに違いない。しかしこれといって思い当たることはなく首を傾げていると大きなため息が聞こえた。ちらりと見てみれば雑誌を置いてこちらを呆れた目で見る爆豪。


「久しぶりにじっと私見てくれたね」
「……うるせえよ」
「え?」


どさっ。ベッドの上にいたことで見下ろしていたはずの爆豪を今は見上げている。同時に天井も見えてなまえはそこでようやく自分がベッドに押し倒されたことに気づいた。


「ば、爆豪っ? ご、ごめん。ほんとに私何かしたの?」
「してねえよ。もう黙ってろ」
「黙ってろって……、ん……っ」


表現をするならば、言葉の通り噛みつくようなキスだった。歯と歯がぶつかりそうになりながらも乱暴に舌を絡ませてくる。息が苦しくなったら息を吸わせてはくれるが退いてはくれなかった。


「おい」
「な、なに……」
「誰がなまえのことを嫌いだって?」
「かつきくん……」
「茶化すな」


眉をひそめ頭をぐしゃぐしゃと掻いた爆豪は顔を近づけたまま両手をなまえの頬に添える。こつんと額がぶつかり爆豪は重い口を開いた。


「距離がわからねぇ」
「? 距離って……」
「気ぃ抜いたら今みたいにめちゃくちゃにしてやりたくなる……でもそれじゃなまえは嫌がんだろ、多分」


数秒の沈黙。すると突然なまえが目の前にある爆豪の下唇をぱくりと唇で挟んできたため慌てて離れた。「てめ…ッ」と吠える三秒前だったが「いいよ」というなまえの声で爆豪の動きは止まった。


「別に……気にしないし。いいよ、めちゃくちゃにして、爆豪」
「……っ意味わかって言ってねえだろ」
「わかってる。……それに、前みたいに爆豪と話せないの…結構つらいよ」


髪色に負けないくらいなまえの顔は赤いが表情は真剣なために何も言えなくなる。今日一番のため息をついて爆豪がなまえの横に寝転がった。


「……覚悟しろよ」
「うん」


よかった、これでまた爆豪は自分と目を合わせてくれるだろう。ほっとしたなまえはぎゅっと抱きつく。……その後見事に食べられてしまった。

次の日。午前の授業が終わりなまえが大きく伸びをしていると肩を叩かれた。振り向けば上鳴が人懐こい笑みを浮かべて立っている。


「どうしたの?」
「たまには俺らと飯食わねえ? さっき芦戸たちも誘ってさ」


ちょいちょいと上鳴が指を差している場所には峰田や瀬呂、芦戸そして葉隠がいた。なまえは誘えば爆豪もついてくるだろうかと考えながら頷こうとしたが、首に回った腕によってそれは叶わなかった。驚いて上を見ればそこにいたのは爆豪でなまえだけでなく上鳴や教室に残っていたクラスメイトも目を点にしている。


「なまえ行くぞ」
「えっ……あー、ごめん上鳴。一緒に食べられない」
「お、おう」


なまえ以外は視界にすら入れず腕を退けた爆豪はなまえが立ち上がり隣に来たのを確認して食堂へ向けて歩き出した。やっぱり目が合うのは嬉しいものだ。なまえたちが教室から去った瞬間、しんとしいた教室内が一気にざわめいた。


「やべえ……お昼誘っただけで爆豪に視線で殺された……」
「オイラ誘うの名乗り出なくてよかった」
「爆豪さん、前までなまえさんのことを避けてはいませんでしたか……?」
「ヤオモモぉ、わかってないなぁ」
「えっ?」


芦戸が爆豪なりの葛藤があったみたいだけどあの二人付き合ってたんだよと教えたことによって 、八百万が恥ずかしさの余り赤くなり悲鳴を上げた。それを宥めるのに必死になり一部の生徒はお昼を食べるのがギリギリになったとかならなかったとか。


「爆豪相変わらず色あっかいね……美味しいの?」
「不味いもん食うわけねえだろうが」
「私のも美味しいよ」
「……そうかよ」


もちろんそんなこと二人には知る由もない。



一瞬にして永遠



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