「なまえ」
「轟くん……?」


プロヒーローになって早三年。付き合っていた二人は半年前やっと同棲を始めた。きっかけは高校の同窓会。皆がプロで活躍する中時間を作り行った同窓会で未だ健全な交際を続ける二人に痺れを切らしたのか、全員が同棲しろと提案という名の命令をしたのである。「一緒に住むの!? そうなったら、わ、私は嬉しいけど……轟くん嫌じゃない?」「するか、同棲」「ひえっ」轟の行動力は凄まじく、なまえが気づいたときには一緒に住んでいた。何が起こったのか今でも理解できていない。現在の時刻は夜の十一時。ソファに座ってテレビを見ていたが朝も早いためそろそろ寝ようとしたところ轟に名前を呼ばれた。


「どうしたの?」
「これ」
「これ? ……あっ」


目の前に出されたのはニュースやスクープがまとめられた今日発売日の週刊誌だった。表紙に見覚えがありすぎてなまえは自分の顔が真っ青になっていくのがわかる。パラパラと捲り目的のページに辿りついた轟はなまえに週刊誌を見せた。熱愛か!? と大きな見出しと共に載っている写真は間違いなくなまえで、隣は爆豪の姿。お互いに私服なこともありなまえは笑顔だ、いいネタになるのは言うまでもなかった。


「あぁああ、と、轟くんっ! ご、ごめん! じゃなくて、違う! 実はっ」
「いや、別に怒ってるわけじゃねえ。なまえが週刊誌にこうやって熱愛報道されるのは慣れた」
「それはそれでなんか……っ」


言い訳をすると、写真を撮られた日なまえと爆豪が会ったのは偶然だった。ヒーロー活動を終えてたまたま会い、帰る道が途中まで一緒なのもあり爆豪に邪険にされながらも一緒に帰っていただけ。笑顔については無意識に轟とののろけ話を爆豪にしていたからだ。そしてもう一つ。轟の言う通りなまえがスクープされるのは今に始まったことではなかった。切島から始まり上鳴や飯田とも二人でいたところを撮られたし、この間は麗日との同性カップルなんて面白おかしく記事が書かれてもいた。見事に高校の同級生としか撮られていない。最初はテレビでも報道されていたが売れていない週刊誌と無理のある記事、何よりなまえのヒーロー活動や印象により信じる者はいなくなり「また記事になってたねー」と道行く人に言われるだけとなった。そのため今は迷惑をかけましたと相手の事務所に謝りに行けばすぐに解決する。だが今回は爆豪なので謝るだけで済めばいいと思っているのは秘密だ。そういえば明日謝りに行くことになっていた。許してもらえるか心配になってきた。


「この記事についてはまた撮られてたってちゃんと言おうと思ってたんだけど……帰ってきて轟くんと会ったら嬉しくて忘れちゃって……」
「わかってる。俺のこと好きだもんな」
「やめてっ!?」
「……変なこと言ったか?」


言いたいことはあるがとりあえず。怒っていないならなぜ突然なまえに週刊誌を出してきたのだろう。轟は閉じた週刊誌をじっと見つめながら口を開いた。


「どうして交際を隠しているわけでもないのに俺となまえは撮られないんだ……?」
「そこ!?」


だが言われてみれば確かに公に交際していると言ってもいないが隠してもいなかった。だというのに今まで轟とは一度も撮られたことはない。


「この間もなまえが外で飲んで酔ってたところを介抱しながら家まで帰ったっていうのに次の日は俺が昼間に活躍したことしかニュースになってなかった」
「い、いいことじゃないかなぁ……? 轟くんが活躍してるところすっごくかっこいいし……」
「おう……そう言われるのは嬉しいな。……それで考えたんだが」
「うん?」
「結婚しよう」
「うん……うん!!?」


遊ぼうくらいの軽いノリで言われて思わず返事をしてしまったがいきなりすぎて時間差で驚いた。


「悪ぃ。ムードとかそういうのよくわからねえから」
「えっ……あっ、う、ううん! け…っ結婚かぁ……考えたことなかったなって、」
「だよな。でも結婚すれば熱愛発覚記事はなくなるし昼間でも思う存分くっついてられるぞ」
「わ、っあ、轟くんどうしたの……!」


なまえの隣に座った轟がなまえをぎゅうときつく抱きしめる。どきどきと鼓動がうるさい。なまえは慌てていたが轟の肩に顔を埋める形で大人しくなる。すると抱いていた腕の力を緩めた轟が耳元で囁く。


「記事がでっち上げだって知ってる。なまえが俺のこと好きなのも知ってる。……でも正直、妬いた」
「っ……とど、ろきく」
「なあ、ダメか……俺と結婚、しねぇか」


すっと離れた轟の顔を見れば真剣な顔をしているが耳が赤くなっていた。それがとても愛おしくて、胸がぎゅっとなる。頷くしかなくて、こくりと首を縦に振った。


「……顔赤い」


なまえ自身も人のことを言えなかったようである。こうして緑谷なまえは轟なまえとなった。そのあと結局熱愛報道が浮気報道に変わるだけとなったり、なまえが轟をなかなか名前で呼べなかったりするがそれはまた別の話である。



まどろむ君に降りつもる



戻る