「お、遅くなってごめんっなまえちゃん……!」
「デクくん!」


ぱぁっと花が咲いたように笑うなまえの姿に緑谷はンンっと数秒だけ顔を手で隠して悶えた。今日は念願のデートの日。女の子より来るのが遅れるなんて最低だと何度も謝るがなまえは大して気にした様子もなくいいよいいよーと手を振っている。このまま謝ってデートの時間を潰すのももったいなくて謝るのをやめなまえを見た。おしゃれをしてきたのかワンピースを着て髪を二つに結ったなまえに、かああっと顔が赤くなっていくのがわかる。それにつられるようにしてなまえの顔もみるみるうちに赤く染まっていった。


「えと……似合うかな。この服。ちょっと気合い入れすぎたかなぁ」
「そそそそんなことないッ! に、似合ってます! かわいい!」
「ぅえ!? あ、ありがとう……」


沈黙が走ったが先に破ったのは緑谷だった。赤い顔のまま行こうとなまえに右手を差し出す。こくりと頷いたなまえが手を重ねたのを確認して緑谷は歩き始めた。歩きながらした会話は緊張であまり覚えていないが途切れることなく続いた。


「わっ見てデクくん。このうさぎなんかデクくんに似てる」
「ええっ似てないよ……!?」
「似てるよ目の辺りとか」


色んなお店へ行きお互いお金はあまり使いたくなかったため商品を見て楽しんだ。服を見たり文房具を見たりヒーローグッズを見たり。なまえと一緒ということもあり楽しさは倍増されている。ぬいぐるみ売り場を通ったなまえは興奮したようにわああっと目を輝かせた。うさぎを持ちながら緑谷とぬいぐるみを比べ似てる似てると満足そうだ。うさぎを持ってはしゃぐ姿が麗かすぎて目眩がしそうである。


「あっこの熊もデクくんっぽいよ」


なまえが手に取ったのは魚をくわえて凛々しい顔をした熊のぬいぐるみだった。先ほどのかわいらしいうさぎとは反対にかっこいい部類に入るであろう熊に似ていると言われ首を傾げる。


「うさぎはいつものデクくん。熊はヒーローのデクくんだよ。どっちも好きなんだぁ、私」


えへとはにかんだなまえを思わず抱きしめそうになりぐっと堪えた自分を褒めてほしかった。彼女の目にはヒーローとしての自分がこの熊のように映っていたらしい。突然固まった緑谷を心配したのかなまえはおーいと声をかける。はっとした緑谷は大丈夫っと言い、深呼吸をした。


「ぼ、僕も……っ」
「うん?」
「僕も、好きで…す……」


語尾は掠れてしまったがなまえには伝わったようでぶわっと耳までリンゴの色に染めた。緑谷は言わずもがなである。見つめあったままどれくらいの時間が経ったのか。静寂は「そっそのぬいぐるみ買う!?」「え、えっと、我慢する!」「そそそ、そっか!」という会話によって途切れた。ぬいぐるみを元あった場所へ戻しお店から出る。熱い顔を冷まそうと手でパタパタ風を送るなまえにまた手を差し出す。低めの位置で差し出された意図に気づいたなまえはおそるおそるといった様子で親指だけを浮かせ"個性"が発動しないようゆっくり指を絡ませた。いわゆる恋人繋ぎだ。


「デク、くん……出久くん」
「うぐっ」
「どうしたの!?」
「ご、ごめん……なまえちゃんに名前呼ばれて、気持ちが少しその…ハイに……」
「……もう呼ばないほうがいいってこと?」
「……完全に二人きりのときに、お願いします」
「……ふふっわかったよ、デクくん」


次はどこに行く? と微笑むなまえに緑谷も自然と口角が上がる。歩きながら決めよっか。そう言いながら指を絡ませたまま歩き出す。なまえはそうしようと答えて絡んだ指に力を込めた。幸せだよとでも言いたげに。



あなたは影すら美しい



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