「なあコンプレス」
「? なんだ死柄木。腹でも下したのか」
「こういう話はおまえが一番適任だろうから聞くんだけどさ」


どうやら今日は顔にいつもの手をつけていないらしく、死柄木のぼんやりとした目が前髪に隠れつつもよく見えた。コンプレスは渾身のボケをスルーされたことを微塵も気にせず小首を傾げる。はて、こういう話とは。


「なまえへの手の出し方が知りたい」
「……死柄木も冗談とか言うんだな」
「冗談でこんな話するか」
「それもそうだ」


空笑いをしてコンプレスは顎に手を当てた。そして数秒黙った後で思考を整理したコンプレスの目は完全に死んだ。


「お前らあれで……あんなベタベタしてて、進展してなかったのか……」


若干距離が近くなったことで付き合ったことはなんとなく察していたが、まさかここまで進んでいないなんて。誰か助けてくれと思ったが、無慈悲にも自分と死柄木以外の姿はない。死柄木がコンプレスしかいないときを選んだのだから当然と言えば当然である。


「んー、あー、まあ……それは知識がほしいって意味?」
「端的に言えば」
「……これまで手を出さなくても幸せだったなら今のままでいいんじゃない?」
「………」


たしかに。表情からそんな返事が聞こえて、コンプレスはわざとらしく肩をすくめる。


「体を繋げるだけが愛情じゃねえと思うね」


手持ち無沙汰から圧縮したビー玉のようなものを真上に飛ばしキャッチした。何も言わず去っていった死柄木に納得したことを悟る。


「青春か、つって」


進んでいない事実を知っても、コンプレスはきっと今後も知識を死柄木に伝えることはないだろう。多分、『今のまま』の関係だから二人は幸せなのだ。無理して次のステップに進む必要はないと思うし、第三者が無理やり進ませようとする必要もないと思う。敵連合の中で自分に尋ねてきた死柄木の考えは正しかった。きっと他の者ならば面白半分で教えたり、間違った知識を語っていただろうから。







ずっと一緒にいたい。

なまえは目を細めながら死柄木の姿を思い出して、一人ふふふと笑う。誰かに見られようものならニヤニヤし、急に笑い出す自分に引いた目を向けるはずだ。だけど今この場にはなまえただ一人。そんなこと気にしなくていいのだ。


「私ね、本当にもう何も怖くないよ」


いじめられていた過去も、ヒーローへの憧れの気持ちも、幼なじみのことも。怖いことを探すとしたら、やっぱり仲間のみんなが危険な目にあうことだ。全部ぜんぶ怖くないし、死柄木が――みんながそばにいてくれるなら、なまえは怖くないし、寂しくない。生きていける。


「ずっと……ずーっと……」


彼らはなまえを一人にしないと破らない約束をしてくれているから。これから何があったって、なまえは幸せに生きてみせる。

――ずっと。



インターン編 その後



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