なまえを見て、「あ、知っている」と直感で感じた。

ドアのノック音がしたときはただ不思議だった。だって壊理の知っている構成員たちはノックなんてせず突然入室してくる人ばかりだ。恐怖で体が動けないまま開いたドアの先にいたのが、なまえだった。なまえを視界に入れた途端「この人は大丈夫」だと安心し、涙を流した理由は正直今でもよくわからない。明らかに初対面なのに、なぜ壊理はなまえを知っていると思ったのだろう。なまえに抱きつきながら涙を流す中、ほんの少しだけあった冷静な部分で考えたけれど答えなんて出なかった。

ミリオが自分を助けに来て、ルミリオンというヒーロー名を聞いたとき泣いた理由は、懐かしさを感じたからだ。その瞬間自分でも知らない何かを知っている、という意味のわからない結論に辿りつき、気づいたときには"個性"が暴走していた。駆けつけてくれた相澤が"個性"を消してくれなければ、きっと取り返しのつかないことになっていただろう。


「なまえさん……」


医者が言うには、どうやら自分は高熱を出してしばらく寝込んでいたらしい。長かった角はすっかり短くなり、皆口にはしないが暴走する力はおそらく残っていない。今後また長くなる可能性は捨てきれないけれど。

病院関係者になまえの名前を出したとき、とても困った顔をされたのは記憶に新しい。縮んだ角を指先で触り、壊理は静かに瞼を伏せた。


「ルミリオンさんなら……何か、わかるかな」


そこでミリオがなまえを見たとき、何かを知っていたような口振りだったのを思い出す。壊理がなまえを助けたいと願う一人になることを知る者は、まだいない。







「ちょっと聞いてくれない!? 私が一緒に行くと絶対すぐ殺すだろって、護送車襲撃連れて行ってくれなかったのよ! 酷いわよねぇ!?」
「た、ただいま、マグ姉」
「おかえりなさい。ケガとかない?」


現時点でのアジトへと到着したなまえやトガ、トゥワイスを迎えたのは待機命令をされていたらしいマグネだった。武器の手入れ中だったらしく手には手拭いが握られている。死柄木たちより先についたらしくマグネ以外の姿はない。マグネの問いかけに頷きを返したなまえは、埃っぽいソファに腰かけるトガの横に座り息を吐いた。


「なんか、色々ありすぎて疲れちゃったかも……」
「ゴクドーざまーみろでしたけど、たしかに疲れましたね。なまえちゃんは私たちより弱っちいですし、少し寝てきたらどうですか?」
「よわっちい」


トガに本音という名の毒を吐かれたなまえは苦笑しつつもお言葉に甘えて少し休むことにした。八斎會では熟睡できなかったしちょうどいいかもしれない。本当なら死柄木たちが帰ってくるのを待ちたかったが疲れと睡魔には勝てなかった。

「休むなら二階に比較的きれいな部屋があったし、そこを使うといいわ」とマグネに教えてもらった部屋には簡易ベッドがあり、埃っぽさもあまり感じなかった。トガやトゥワイスも疲れているだろうになんだか申し訳ない。起きるころには死柄木は戻ってきているだろうか。戻ってきていたら、いいな。そこまで思考を巡らせたところまでは覚えているため、きっとそのまま寝てしまったのだろう。







「起きるのがおせぇ」


戻ってきてほしいとは言ったが、まさか起きた瞬間死柄木の顔が至近距離にあるなんて誰も思うまい。驚きすぎると声が出ないことを実感し、なまえはぽかんと口を開け瞬きを繰り返すのだった。

なんともまあ、締まらない再会である。



インターン編 11



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