電車の旅をする前に適当に入ったショッピングモール。制服が売ってあったのを見つけて試着室でセーラー服を着た。学校は嫌だったけど制服だけは気に入っていたし、ブレザーじゃ落ちつかない。しかもセーラー服に似合いそうな黄色のセーターまで見つけることができた。かわいくてお気に入りだ。私服はあとで買おうーっと。ついでにスクールバッグを購入して気分は完全にJKである。中卒だけど。通勤中の会社員と思われる人たちについていけば駅へはすぐにつくことができた。というか明らかに人間じゃない見た目の人がたくさんいてびっくりする。この世界じゃ普通の光景なんだな。適当に切符を買って、その切符で行けるところまで行った。そしたらそのついた駅でまた適当に切符を買って、降りたところで切符を買って。景色を眺めながらの旅はそれはそれは楽しかった。だが楽しい時間はあっという間。数時間の電車の旅は予め決めていた切符の代金がなくなってしまったことで終わりを告げた。


「んー! 楽しかったぁ!」


ずれていた赤いスカーフを直しながら笑顔で電車を降りる。随分遠くにきちゃった。駅内のコンビニでおにぎりを買ってもぐもぐと頬張る。美味しいなあ、楽しいなあ……なんだかテンション上がってきちゃった。次は……あっ図書館だ。ここに入ろう! この世界にはどんな本があるかなー。色んな本を読むつもりでいたが、目についた絵本を大量に読んでいたら閉館時間になってしまって驚いた。絵本しか読んでない! ひとまず閉館ということで図書館を出た。うーんと、次は寝る場所か。


「公園……公園ないかな」


ホテルでもいいけどわざわざ一泊のためだけにお金を使うのももったいない。うーんお金なくなったらどうしよう。お札を握って夜道を鼻歌を歌いながら進んでいると後ろからポンと肩に手を置かれた。夜に歩いてたから補導かなって思って振り向いたら息の荒いおじ様。母親だった人が付き合ってた一人に似てた。


「君……もしかしてお金に困ってる?」
「はい」


素直に頷いてにこにこ笑う。誰だろうこのおじ様。するとおじ様は私の手を取り一万円を何枚か握らせてきた。「一緒に食事してくれるならそれあげるよ」そう言われ喜んで! と返事をするとおじ様も喜んだ。ご飯一緒に食べるだけでこんなにお金もらえるの? わーいと私は高級そうなレストランに入りおじ様と一緒にご飯を食べた。あんな柔らかいお肉食べたことなくて頬が落ちるかと思った……。散歩に付き合ってくれたら更にお金を増やしてくれるらしい。お札を握りしめたままおじ様の隣を歩いていたが人気のない路地裏についた途端足を止めた。


「どうかしました?」
「ね、ねえ……君いつもこんなことしてるんだ」
「お金をもらうことですか? いえいえ。今日が初めてですよ」


こんなことでお金が稼げるなら前世でも多分やっていたし。おじ様はそ、そう……と呟き私の両肩に両手を置いた。突如ガクンと体の力が抜けて座り込んでしまう。あれれ? と瞬きを繰り返しているとおじ様が興奮しながら早口で言葉を発した。


「ぼくの"個性"なんだ……っ、両手で触れた人の力を一定時間奪うっていう……」
「"個性"……なるほど。何で力が抜けたかわかりました。離れてくれますか」
「どうしてっ? こうなることわかってたよね? わかってて君こんな援交みたいなことしてたんだよね?」
「えんこー?」


なんか面倒なことになったな。全く意味がわからないし、どうしてこの人は私の制服を脱がそうとしてるんだろう。これ、知ってる……母親だった人と付き合ってた人が二人でリビングでしてたところ見てしまったことあったもん。もっとお金あげるね、と言われたけどいらない。……やだな、知らない人に触られるの気持ちわる――


「こ、こっちですっ! あの、女の子が男性にっ!」
「っ!?」


男の子の声が路地裏に響くとおじ様は顔を真っ青にして走り去ってしまった。しっかりお金は置いていってくれた(落としていったみたいだ)からあとで拾っておかなくちゃ……。何はともあれ助かったみたいだ。声のしたほうへ顔を向けると緑がかった癖毛とそばかすが特徴的な男の子が焦った様子でこちらに駆けてきた。


「よ、よかった無事で……! たまたま学校に忘れ物して帰宅時間が遅くなって助かった……っ、お札握ったまま男の人の隣歩いてるから心配してついてきちゃって……でもそのおかげで助けられて安心したぁ……誰もいないけど警察かヒーローがいるみたいに叫んで正解だったな……。あっすみません大丈夫ですか? 怪我とかないですよねっ?」


ブツブツと呟いたあとであわあわと私の心配をしだす同い年くらいの男の子。女の子のピンチに颯爽と現れ駆けつける一人の男の子。図書館で読んだ絵本と同じ展開に私は目を輝かせた。そして力の入らないまま男の子を見上げてぼそりと独り言のように呟く。


「王子様だぁ」
「……えっ?」


これが私と彼のファーストコンタクトだった。


02.世迷え血迷え



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