「やはり衰えた。全盛期なら五発も撃てば十分だったろうに。三百発以上も撃ってしまった」


ショック吸収をなかったことにしてしまった。再生が間に合わないほどの拳の連打を続け、脳無はやられた。


「さてと敵。お互い早めに決着つけたいね」
「チートが……! 全っ然弱ってないじゃないか!!」


土埃に紛れるオールマイトに死柄木は妬ましそうにガリガリと首を掻く。脳無さえいれば……と呟いていると黒霧の焦った声が聞こえる。


「死柄木弔! なまえはどこです!」
「は……なまえなら、後ろに」


……いない? 死柄木はまさかと思い生徒がいたほうへ顔を向けた。爆豪によって動けないように腕を後ろで拘束されたなまえが死柄木の視界に入り、ゆっくり瞬きをを繰り返す。ダメだ。死柄木は首から手を離すとやけに落ちついた声で爆豪に話しかけた。


「驚いた……オールマイトが脳無倒してる隙になまえを取り戻すなんて……すごいなぁ、さすが雄英だ」
「ナイスだ爆豪少年! 皆、なまえくんを連れて安全な場所へ!」
「……っ、弔くん……」


なまえの声は震えていた。轟や切島はオールマイトの指示に頷き逃げようとする。爆豪もここにいては戦いの妨げになると判断し逃げようとしたのだが、なまえが死柄木たちを見ていて一歩も動こうとしない。


「歩け。あいつらもおしまいだろ」
「おしまい、って……」
「あとで何があってあんなとこいたのか言い訳くらい聞いてやる。……敵にいる必要、もうねえんだよなまえ」
「……いやだ」
「は?」
「いやだよ……戻りたくない……。放っておいてよ、なんで今更そんなこと言うのかっちゃん……私ヒーローになれないんでしょ……? 返せって何……? "無個性"の私が必要だって言ってくれたことなかったのに、なんで今更……なんでっ……やだ、弔くん……弔くん、助けて、弔くん……!」
「……気絶させるか、爆豪」


切島が尋ねるも爆豪からの返事はない。ぼろぼろ涙を零して敵に助けを乞うなまえの姿が痛ましかった。こんなにしてしまったのは過去の自分の行いのせいか。ヒーローという夢を諦めさせるためだけになまえをいらないものとして扱い、酷いことをしてきた罰か。

そしてオールマイトは活動限界がすぐそこまで来ていた。あと一歩でも動けばトゥルーフォームに戻ってしまうだろう。時間を稼ぐことにして他のヒーローの到着を待つ。自分はもう動けないからそうするしかなかった。


「なまえが奪われた……脳無もやられた……ダメだ、ダメだ」
「死柄木弔、よく見れば脳無に受けたダメージは確実に表れている。連携すればチャンスはあるかと……」
「うん……そうだな……そうだよ。目の前にラスボスがいるんだもの……何より脳無の仇だ」


オールマイトはそれに来るんかいと身構えるしかなかった。しかしいつになっても死柄木や黒霧が動く気配を見せない。オールマイトが内心首を傾げると突然死柄木は手を上げる。


「仇……も取りたいけど、ダメなんだよなぁ。何がダメって……なまえはダメだ」
「! 逃げろ爆豪少年っ」
「もう遅いよ」


黒霧のワープゲートが爆豪の眼前に迫りそこから死柄木の手が現れた。急なことで全員の判断が遅れる。オールマイトは動けない。死柄木の指が爆豪に触れようとしたとき、いくつかの銃声と共に鮮血が見えなまえは目を見開く。死柄木の手が、撃たれた。


「1-Aクラス委員長、飯田天哉! ただいま戻りました!」


プロヒーローが到着してしまった。ゲームオーバーだと死柄木は脱力する。


「弔くん!!」
「なっ……なまえ!」


銃声によって爆豪の手が緩みなまえは拘束から抜け出す。そしてホーミングの"個性"を持つスナイプにより撃たれ血を流す死柄木の元へ全速力で走った。オールマイトは撃ち続けようとするスナイプにストップだ! と大声を上げる。なまえは泣きながら死柄木の胸に飛び込んだ。無事だったと安心して涙を止めることができない。


「弔くっ……弔くん……っうう」
「離れろ……あのさ、こっちは撃たれてんだよ……黒霧、帰って出直そう」
「ええ。どうやらプロヒーローだけでなく生徒も全員来てしまったようですし。長居は無用」
「手下全部やられたのかよ……はあ。なまえ取り返せたし、ラスボスはまた今度でいいか」


なまえが涙を拭いながら辺りを見回すと自分がよく知るプロヒーローの他に生徒全員が集まっている。この状況は不利でしかなかった。敵連合の負けだ。


「なまえ!!」
「なまえくん!!」
「……かっちゃん……オールマイト……」


爆豪とオールマイトが自分を呼んでいる。死柄木が撃たれたときのように二人の元へ駆け寄れば自分は戻れるはずだ。幸い自分が敵だと知っているのはこの場にいる人間だけ。誰も傷つけていないため、戻ってそれなりの罰を受ければ不自由なく過ごせる場所を作ってくれるかもしれない。


「なまえ」


だけどそれはなまえには不必要なものだ。居場所ならすでに死柄木たちが作ってくれた。負傷した13号が捕獲しようと慌ててブラックホールを発動させるが少し遅かったようだ。


「今度は殺すぞ。平和の象徴、オールマイト」
「……ごめんなさい」


なまえの謝罪は、たしかに拒絶だった。なまえたちは黒霧の"個性"によって消えていく。残された爆豪は膝をつき、クソが……っ! と悔しそうに何度も何度もコンクリートを殴った。

逃してしまったとはいえ敵に勝利したのに、途方もない敗北感がオールマイトたちを襲った。


USJ襲撃編:後編



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