死柄木がアジトへ戻るとなまえがテーブルに突っ伏すように眠っているだけで、他の者の姿は見当たらなかった。なまえの隣の椅子へ座り寝顔をじっと見つめる。こいつただでさえ"無個性"で隙だらけなのに普通寝るか。無防備にも程がある。性格破綻者のガキ以外は全員男だぞ、とため息をつきたくなった。

敵連合でなまえを好いていない者はいない。それが友情だろうが他の感情だろうが、なまえは人を惹きつける。死柄木がそうであるように。なまえに害を及ぼすものは全て排除しなければ。ヘラヘラ笑っている分には構わないが、なまえが泣くようなこと……傷つくようなことは決して許してはいけない。例えなまえがそれを望んでいなくても……絶対に。


「んー……弔くん……?」


どうやら起きたようだ。眠そうに死柄木を見上げたなまえは小さく欠伸を漏らす。まだ半分夢の中なのかうとうとと船を漕ぐなまえの顔の前に片手を近づけると一気に目が覚めたらしい。バッと死柄木の親指と小指を両手で掴んだなまえは安堵の息を吐いた。


「びっくりしたよ弔くん……」
「いいだろ別に。目覚めたんだから」


そりゃあ触れれば崩壊する"個性"を持つ死柄木の手が近づけばびっくりもするだろう。一人自嘲しているとなまえが突然そわそわとし始めた。


「と、弔くん。いきなりはびっくりするけど、言ってくれればいいよ」
「……いや何をだよ」
「さっきの……その、起きる前にやった手を……」


両頬に手を添えて目を逸らすなまえに死柄木は引いた声を出す。


「自殺祈願者か」
「え! なんで!?」


違うよとなまえが必死になって否定していた。だがさすがに崩壊されたいとでも言いたげな発言をしては自殺祈願者と思われても仕方がない。死柄木が告げるとなまえの首がぶんぶんと勢いよく振られた。


「それも違うよ……! 私はただっ」
「ただ?」
「ただ……弔くんが、頭撫でてくれるのかと……お、思って……」


死柄木の動きが止まったことで勘違いだとわかったなまえは頬を赤くした。「だだだって弔くんから触ってくれるなんて嬉しいけどびっくりするよ! ほんとに撫でてくれるなら心の準備がほしかったの!」と逆ギレしてくるなまえの叫びがアジトに響く。顔が赤いので全く怖くないところがなまえらしい。


「……少しでも俺に"個性"使われるかもとか思わないわけ、おまえ」
「? うん」


迷いのない即答であった。敵連合で自分がそう仕向けたのだから当然だが一番懐かれている自覚はある。だがまさか危機管理能力まで欠如してしまったとは。


「なまえは信じすぎて痛い目にあうタイプの人間だよ」
「弔くんがいつも味方とか一緒にいればいいって言うから……」
「へえ」
「もう……私ちょっと期待してたのに……」


大体撫でてはいないが頭に手を乗せるくらい雄英を襲撃した後もやった。なまえが言うにはそれどころじゃない心情だったらしい。死柄木的にはすごくどうでもよかった。


「そういえば弔くんの手って意外とあったかいよね」
「触るな」
「私そう言いながらも引き剥がしたことない弔くん大好きだよ」


からかうつもりが一切ない本音に、うるさいと言うつもりだった口を閉ざす。すぐになまえが「思い出した……子ども体温だ……!」などと余計なことを零したため死柄木は言葉の代わりにため息をついた。


「大体なまえのが体温高いだろ……俺は普通だ」
「そんなことないよ。ほら」


ぴとりとなまえの両手が首元に当たる。急所に触れることを許す辺り死柄木も人のことを言えないのだが、二人は気づかぬまま会話を続けた。


「……完全になまえだろこれ」
「えー弔くんだよ絶対」
「何をしてるんですか二人して」


帰ってきたらしい黒霧がお互い近距離で言い合いというよりかはじゃれているのを見て疑問を抱く。なまえがおかえりなさいと微笑んだあとで、あのね! と黒霧に手のひらを突き出した。


「弔くんが私の体温あったかいって言うんです。弔くんのほうがあったかいのに」
「だからなまえだろ」
「……変なところで意固地だよね弔くん」
「じゃあもう俺ってことでいいこの話は終わりだ」
「仲がよろしいようで」


黒霧は軽くあしらいいつもの定位置に立つ。よすぎる仲だとは思うが、この二人を見ているのは飽きない。


「そろそろ他の者たちも帰ってくるでしょう」
「皆いないからつまんなかったなあ」
「で、寝たわけか」
「まだかなって座ってたらいつの間にか……でも目が覚めたら弔くんいたから嬉しかったよ」


えへへと死柄木にはにかむなまえ。死柄木はなまえを見つめてはいたが何も言わなかった。

そのあとは体温の話を蒸し返したなまえによってしばらく二人のじゃれあいが続く。黒霧は見守るように二人を眺めていたと他の敵連合のメンバーは語った。


ふたり手をつないで幸せなところまで歩きたい



戻る