どこだ、ここ。ぱちぱちと瞬きを繰り返しても景色は変わることなく街灯が自分を照らし影を作っていた。私さっきまで何してたっけ。たしか、家にいたはずなんだけど。夢でも見てるのかな。明晰夢?


「……なまえ。渡我なまえ」


あれれ、口が勝手に動いた。なるほどなるほど。苗字だけ現実と違う。ここでの私は渡我なまえ、自分の目で見る限り紺のブレザーと赤いリボン、チェックのスカートという制服を着た女の子。スカートのなかに中に手鏡を見つけたので自分の顔を確認すると中学生くらいっぽかった。私も昨日卒業式を終えた中学三年生だから同じくらいかな。これが夢の中の私? 五感がしっかり機能しているせいで本当に夢なのかわからなくなる。……あっ、違う、思い出した。


「死んだんだ、私」


私は小さい頃両親が離婚し母親に育てられた。……育てられてはいないか。私を放ったらかして色んな男の人と遊んでいたし。男の人と大体長続きはせず、母親はいつも最後こう言われていたらしい。「娘のほうがかわいい」と。自分ではわからないがどうやら母親より顔がいいようだった。そうして怒り狂った実の母親に首を絞められて私は死んだ。私が死ねば比べられることもないと思ったんだろう。家に連れ込まなければいいだけなのに。幸せでもなんでもなかったからいいけど、苦しさを思い出してけほっと少しだけ咳き込んだ。

はねた髪を指に巻きつけて遊びながら歩き出す。家では母親から愛されず居場所がなくて、一応行っていた学校ではいじめ。どうしようもない人生だった。死んでから思うと私よく我慢してたなぁ。ではこの体はなんだろう。死ぬ前は金髪ではなく黒髪だったし制服だってセーラー服だった。この体で生きていた記憶をなくして前世を思い出したパターンかな。他のパターンを考えるのも面倒だしそれでいっか。つまり輪廻転生をして、この世界で私は既に約十五年を過ごしているわけだ。知らないけど。もはや妄想だけど。


「……夜出歩いてバッグも持ってないし、どうせここでの世界の私も一人ぼっちなんだろうなー」


前世と同じく携帯は持っていなかったし、スカートに入っているのはくしゃくしゃの一万円札五枚と手鏡だけだった。念の為漁ったブレザーのポケットには学生証が入っていたけど聞いたこともない学校名だったから、第二の人生を歩んでいるのは間違いない。頬や腕を抓ったらすごく痛かったから現実なのも間違いないようだ。実は生きてて夢オチだったりとか考えたけどもう母親だった人なんて見たくないし考えるのはやめた。これが現実! 私はこの世界でただ自由に生きる! やったぁ!


「……あ、お家ないっ」


そもそもここがどこかもわからない! 学生証には手書きで住所を書くところがあったけど無記入だったし多分書いてあっても家には辿り着けないだろう。てくてく歩いて公園を見つけたので丁度いいと設置されていた水道で水を飲みベンチに寝転がった。前世じゃ床で寝ていた回数のほうが多かったからベンチの硬さくらいじゃ動じない。よし寝よう。寝てベンチで起きたら本当にこれが現実ということになる。そして夢を見ることもなく私は公園で眠りについたのだった。







「すご……」


新事実。この世界には当たり前のようにヒーローが存在しているらしい。日の出と共に目を覚ました私は手鏡で自分の変わらぬ姿を確認してこれが現実だということを確信した。コンビニに寄って櫛や歯ブラシセットなど身だしなみに必要なものを一万円札で買い、ついでに買った朝食であるサンドイッチを頬張りながら歩く。飲み物、水じゃなくてお茶買えばよかったー失敗したーと心の中で呟いていると電気屋なのか外にいくつかテレビが出されていて映像が流れていた。立ち止まり特撮だと思って見ていたそれはニュースだったらしく「新人ヒーロー活躍! 敵(ヴィラン)逮捕へ」と大きく報道されている。ニュースを見る限り世界総人口の八割は"個性"っていう超常能力を持っていて、その"個性"で悪さをする敵をヒーローがやっつけてるって感じかな。ニュースも見るものだ、結構この世界のこと把握できる。あ、テレビ画面の右下に西暦と日付が書いてあった。学生証の生年月日確認してっと……いち、にー、さん……よし、私今高校生だ。JKってやつだ。中学生じゃなかったみたい。JKなのに中学の学生証って私中卒か。さて、年齢の確認もできたところだしこれからどうするかだけど。


「……うん。私がやりたいことやろー」


そうだ、前世でできなかったこと全部やろう。もう母親はいない、苦痛だけだった学校もない、ついでにこの世界の記憶もない。私を縛るものは何もない! 正直生に執着もないとあれば私がやるべきことはこの体で死ぬまで楽しく暮らすことだ!


「やりたいことその一! 気まぐれ電車の旅っ!」


こうして私渡我なまえの新しい人生……? がスタートした。そういえば私にも"個性"ってあるのかな。気になる。


01.プラスチック宇宙



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