*元ネタOne's Justice 敵サイド「IFリーダー」



少し昔の話をしよう。血狂いマスキュラーが敵連合の一員となり数日が経った。しかし加入以来中々暴れられる機会がなく、彼のフラストレーションは溜まっていく一方である。その日、とうとうそれが爆発した。


「おい! まだ作戦はないのか? 我慢の限界だぜ!」


死柄木めがけて大股で歩いてきたマスキュラーは不満を隠すことなく怒鳴った。早く暴れたいのにこのリーダーは作戦を出してくれない。まさか暴れる気がないのか。そんなリーダーおかしいだろ。マスキュラーはグッと拳を握りしめて、椅子に座りため息をつく死柄木を見下ろした。


「うるさい……何度目だその話」


たしかにこの質問をしたのは一度や二度ではないが、今日の怒りはいつもの比ではなかった。ガン! と近くにあった椅子を一脚蹴り飛ばす。椅子は勢いよく壁に当たり大きな音を立てて壊れた。死柄木の隣にいた自分よりずっと前から敵連合にいるというなまえがひっと悲鳴を上げた気がしたが今はどうでもいい。我慢の限界だと口にした。さっさと暴れさせろ。


「我慢なんて言葉がおまえの辞書に入ってたとはな」
「んだと……?」
「と、弔くん……! マスキュラーさん、もう少しですから……もう少しだけ待っててくださ――」
「ああ? うるせえな。女は引っ込んでろよ」
「い……っ」


痛い、と言いたかったのだろう。マスキュラーに近づき宥めようとしたなまえにやめろと手を動かせば爪が掠ってしまった。尻もちをついて頬から血を流すなまえにそういえば女の血は最近見てねえな、とそんなことを思う。マスキュラーはそこで思考が一瞬止まった。ぞわぞわと背中を駆け巡るこれは怯えだ。怯えてる? この俺がか? マスキュラーはその正体にすぐ気づくことができた。死柄木弔。顔面につけられた手の間から見える目は怒りで染められマスキュラーに死を錯覚させる。殺気を向けられて喜ぶことはあれど恐怖したのは初めてだ。冷や汗が伝うのを感じてマスキュラーは言葉を発することができずにいた。


「なまえ。手当てしてこい」
「あ、うん……でもこれくらい……」
「こんにち……わああなまえちゃん血出てるねェ私血って大好きだよ!」
「手当てしてくる!」


アジトにやって来たトガが興奮したことによってなまえはさーっと奥のほうで手当てを始める。トガと同じタイミングでやって来たコンプレスがその様子を見て手当ての手伝いをしてくれていた。


「血の気が多いのは結構だけどさ、なまえはダメだ」
「……そうかよ」
「ああ、ダメだ。一応言っておく。次はないぞ、マスキュラー」


死柄木が瞳孔の開いた瞳を向けながらテーブルにあったグラスを崩壊させていく。半分ほど入っていた飲み物はテーブルから床に零れていった。


「それになまえが言った言葉はあながち嘘じゃない。もうすぐ俺たちは動き出す」
「……! おいおい聞かせろよその話」


ニヤリと笑った死柄木にマスキュラーは一瞬で恐怖を忘れ話に食いつく。しかしマスキュラーの心にはなまえを傷つけたが最後自分の命がないということが刻まれた。

時は過ぎて現在。マスキュラーがアジトへ足を踏み入れるとなまえと一番に目が合った。その目は次第に輝いていきマスキュラーは仕方ねえと腕をL字に上げる。ぱああと周りに花でも飛ばしそうな表情でマスキュラーに近づいたなまえはマスキュラーの腕にぴょんと抱きついた。足を曲げればなまえの体は浮き体重をかけているというのにマスキュラーはちっとも重そうにしない。実際マスキュラーにとってなまえの体重などあってないようなものだ。持ち上げるくらい余裕である。


「マスキュラーさんやっぱりすごいねー!」
「ったく、こんなんで喜ぶなんてなまえは変わってんな」
「そうかな? 今日もありがとうねマスキュラーさん」


パッと手を離して地面に足をつけるとなまえはマスキュラーに笑顔を向けた。マスキュラーがアジトに来る度にせがまれ続けた結果、このやり取りは毎回行われている。まさかなまえと普通に話し触られるようになりそれを許す日が来るなんて思いもしなかった。


「で? 暴れるのはいつだ」
「もうすぐだって言っただろ。……なまえ、相手」
「弔くんてば……マスキュラーさん、いつもので遊ぼう!」
「なまえちゃん遊ぶんですかー?」
「はあ……? またお前ら肩に乗せんのかよ」
「あれ目線高くなるから楽しいんだあ。……ダメ?」
「あーわーったよ、何回でも乗れ」


最近ハマっている、マスキュラーの肩に乗っていつもと違う景色を楽しむ遊びをやりたいと言えばトガも嬉しそうに傍にやって来た。学校に通ってはいないが女子高生二人の相手は疲れるとマスキュラーは二人を肩に乗せて立ち上がる。まるで子守りをしているみたいだと思わなくもないが、なまえの気の済むまでやらせる辺りマスキュラーは敵連合で彼女に会い少なからず絆されたと言っていいだろう。


「走り回ってくださいよ」
「乗せてやってるだけありがたいと思えよ」
「二人ともケンカしないで……!」


暗い夜はあなたの匂いを思い出す



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