「なまえちゃん七並べって知ってるか? 詳しいから教えられるけどどうする!? ルールなんて知らねえよっ」
「七並べ懐かしいね……トゥワイスさん七並べしたいの? やろっか」
「女神……」
「女神?」


どこからともなくトランプを取り出したトゥワイスに提案するとなぜか涙ぐんだ声で喜ばれた。きっと何人かには断られた後だったんだろうな……となまえは苦笑する。突然何かやりたくなるときってあるよねとトゥワイスの持っているトランプを取り笑顔を向ければこくこく頷いてくれた。


「なまえちゃんやるなら私もやりますー!」
「なら俺もやるかな。いいか?」
「ヒミコちゃん、コンプレスさん」
「お前さっき断ってただろ! 許さねえ! 皆でやるからとっとと座りな! パスは特別に五回まで!」


コンプレスは誘っていたらしい。気が変わったのだろうか。トガが小机を用意してくれたため床に座りやることになった。


「誰かスペードの五早く出してください」
「トガちゃん、楽しみは最後まで取っておくものだぜ?」
「コンプレスさんその台詞は自分が持ってることバラしてますよ……」
「なまえちゃん手厳しいなー」
「ほらよダイヤの九!」


スパァン! と豪快にカードを出すトゥワイス。冷静に出していくコンプレス。スペードの五がなかなか出されず不貞腐れながらも他のカードを楽しそうに出すトガ。一方なまえは。


「出せない……!」
「パス使い切っちゃったね。なまえちゃん弱い」
「やめて……やめてヒミコちゃん……っ」
「ここまで出せないと逆にすごいななまえちゃん。そういう"個性"があるんじゃないか?」
「………」
「あー怒るなよなまえちゃん。なまえちゃんの機嫌悪いとあいつの機嫌も悪くなるからさ」
「別に怒ってないですよー」
「いじけてる感じだな!」
「カァイイねェ」


全くカードが出せず頭を抱えていた。ところでコンプレスの言っていたあいつとは一体誰のことだろう。目線の先に死柄木がいた気はするが、自分の機嫌が悪くて死柄木の機嫌も悪くなることなんて……ある、かもしれない。俺の周りで機嫌悪いですオーラ出してんじゃねえよって顔してくるかも。


「せっかくだし罰ゲーム用意しますか?」
「ヒミコちゃん!?」
「お。トガちゃんいいこと言うなあ。じゃあ最下位は一位の言うこと一つなんでも聞くっていう王道ルールでいこうか」
「ふざけんなよ! めちゃくちゃいい案だ。誰がやるか!」


皆より多いカードを握りしめたままなまえは打ちひしがれる。予知能力などないが、自分が最下位になる未来が見えてしまったからだ。顔を青くしているとぽんと肩を叩かる。振り向けば金髪を揺らすマスタードで、やれやれと首を振って言った。


「そんな日もあるよ、なまえさん」
「マスタードくん自分が酷いこと言ってる自覚ないよね!?」


一位はコンプレスだった。見た目がすでに得意そうだったが本当に一位を取るとは。二位はトガだった。コンプレスが最後の最後やっと望むカードを出してくれたことで手持ちがなくなったのである。残るはトゥワイスとなまえだったのだが。


「上がり!!」
「トゥワイス上がり。なまえちゃんの負けだな」
「勝てて悔しい!」
「仁くんなまえちゃんが泣いちゃいます」
「泣かないけど……うう……」
「やってきました、罰ゲームタイム」


シルクハットを片手で取り何かのショーかと思うくらい大袈裟に腕を広げるコンプレス。負けてしまった……となまえがしょんぼり落ち込んでいると今度はスピナーに肩を叩かれて慰められてしまった。


「今日一日なまえちゃんは俺のもの……って言うと割と真面目に死んじゃうから」
「?」
「おじさんなまえちゃんのコーヒーが飲みたいなあ」
「コーヒー……わ、わかりました! 任せてください!」


黒霧さん美味しいコーヒーの淹れ方とかありますかっと駆けて行ったなまえの後ろ姿を見送ったコンプレスは、シルクハットを被り直して立ち上がりながら口を開く。


「あのお願いなら俺は殺されないかな」
「……貴重な仲間を殺すわけないだろ?」
「目は口ほどに物を言う」
「………」
「弔くん。弔くんも何か飲む? よかったら作るけど……どうかした?」
「いや。コーヒー」
「いいよー」


なまえが追加のカップを用意しようとするとトガとトゥワイスがカウンターに近づいた。


「私もほしいでーす! なまえちゃんがいつも飲んでるオレンジジュースで!」
「俺はこいつらと同じでコーヒーな! 砂糖たっぷりで。無糖が好きさっ」
「おいおい二人とも、最下位が勝った全員の言うこと聞くに罰ゲームが変わってるぜ?」
「ふふ……皆の分用意するね。一緒に飲もうよ」
「わぁーい! さすがなまえちゃんです!」


なまえは黒霧と協力して人数分のコーヒーやジュースをせっせと準備し始める。コンプレスの飲み物は一からきちんとなまえが用意してくれた。味わいながら全て飲み干し、美味かったぜさすがなまえちゃんだと頭を撫でれば嬉しそうにはにかんだ。


「頭撫でるのもダメな感じか」
「えっ?」
「なんでもない。ごちそうさま」


現在進行形で死柄木に睨まれていることは一度忘れよう。独占欲の強い奴だと内心思いながらも顔には出さずコンプレスはなまえと話を続けた。


いつだってひとり分の雨を降らせている



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