「女子会しましょー!」
「おー!」
「女子会……?」


マグネが突拍子もなく片手を上に突き上げて宣言すれば、トガもマグネと同じくポーズを決めて賛同する。なまえはトガに腕を引かれ自分も強制参加なのを悟った。壁によりかかるようにして立っていた荼毘がボソリと呟く。


「一人女子じゃないだろ」
「うるさいわねっ!」
「ま、マグ姉……! 私マグ姉のこと女の子として見てるよっ! だから大丈夫……!」
「やだもうなまえちゃんたらーいい子は好きよ!」
「ええーマグ姉より私のほうがなまえちゃんのこと好きですよ。ボロボロになったなまえちゃんが見たいくらいには、だぁいすきです……」
「ひゃっヒミコちゃんなんでシャツの中に手入れるの!?」
「なまえちゃんになったときのためのサイズ測りです」
「何を言ってるのヒミコちゃん!」


そこでトガは殺気を感じてパッとなまえから手を離した。嫌だ嫌だとカウンターの椅子に腰かける手だらけの男を視界に入れてべーっと舌を出す。しかし一転して笑顔を見せるとマグネにねえねえと声をかけた。


「女子会って何するんですかっ」
「女子会って言ったら、やっぱり恋バナかしらねぇ……」
「ヒミコちゃん恋バナしてもスプラッターな話しか出てこないんじゃ……」
「違いないです」
「却下ね」


恋バナは却下になったのだろうか。二人がうーんと悩む姿を横目になまえはトガに乱された服を正す。するとマグネが思いついたようになまえに顔を向けた。


「そうだわなまえちゃんここに来る前に気になる子はいなかったの?」
「え」


自分にその話題が振られるとは思わずなまえはきょとんと首を傾げた。思い出した顔はたくさんあったが、その中でも色濃く頭に残っているのは言わずもがな薄い金髪の彼だ。そういえば、最後にここに来る前のことを思い出したのは襲撃するために雄英に赴いて爆豪と久しぶりに顔を合わせたとき以来だろう。


「……いなかったよ。誰も」
「あらそうなの? ちょっと意外だわ」
「うんと……ほら私"無個性"だから、それでいじめられたりとかしてて……そういうのはあんまり……」
「は……? 大丈夫ですか? 刺しますか?」
「ヒミコちゃん物騒だね!? ……でもね、ここの皆は優しいから大好きだよ。ここに来てよかった」


一部話が通じない者もいるけれどなんだかんだ優しいのは一緒にいるとよくわかる。だからこそどんな形であれ仲間として受け入れてくれた死柄木や先生たちには本当に感謝しているし、これからも敵連合はなまえにとってかけがえのないものだ。いやだっと興奮気味にマグネはトガと目を合わせる。


「私たちだってなまえちゃんのこと大好きに決まってるじゃない、ねえ?」
「はい。だって嫌いなら簡単に殺せちゃいそうななまえちゃん今ごろ一捻りですもんね」
「ひ、一捻り……」


想像したら自分がミンチになるところしか思い浮かばず、うっと手を口に当てる。


「うう……弔くんの場合骨も残らない……」
「……おい、おまえら」
「ごめんなさーい弔くん」
「怒られちゃったわねー」
「ねー」


トガとマグネはきゃっきゃっと楽しそうだ。現実に戻ってきたなまえは女子会を続ける二人からそっと距離をとり死柄木の隣に座る。死柄木の隣が定位置となってしまった今彼の隣が一番落ちつくのだ。


「……弔くん私のこと嫌いじゃないよね?」
「どうだかな」
「曖昧だよ……私弔くんのことも好きなのに……」
「……黒霧なんかこいつに飲ませて黙らせろ」
「おやおや」


死柄木の手のひらが頭に乗りグリグリと攻撃される。痛いというわけではないが早くやめてほしかったため痛いーと口にしておいた。


「どうぞなまえ。すみません、今日はこれしかないのですが」
「わあーりんご……! いえ、好きなので大丈夫ですよ。いただきます黒霧さん」


黒霧が出してくれたりんごジュースを堪能していると、紫と肌色の手が死柄木のいるほうとは反対側のテーブルにつかれた。上を向くと無表情で荼毘が見下ろしている。荼毘さん? と名前を呼んでどうかしたのか尋ねた。


「で。いじめてた男の名前と顔の特徴は」
「その話続いてたんですか!?」


忘れてください、早く言えという謎の言い合い。そして少しだけ離れた場所での女子会の騒がしい声。死柄木が舌打ちをする姿を見て黒霧は静かにふふっと笑った。


「賑やかですね、死柄木弔」
「……うるさいだけだろ」
「そうですか」


簡単に醒めるような夢はもう見ない



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