「まぁ〜〜〜!」
「ヤオモモその反応ついこの間したばっかだよ」


芦戸は興奮する八百万を落ちつかせながら、皆が見ているほうへと目をやった。むすっとした爆豪の腕に抱かれているのは不安そうに眉を八の字にした小さな女の子。顔や髪色には見覚えがあって蛙吹はスッと挙手をしてから声を発した。


「もしかしなくてもなまえちゃんかしら?」
「ああ!? 見りゃわかんだろ!」
「ひい」
「ちょ……爆豪くんっ! なまえちゃん怯えてるよっ」
「うっせえ!」


爆豪が言うには……怒鳴るには、触れた相手を子どもにする"個性"を持つ人とぶつかってしまったことによりこうなってしまったようだ。小さくなってからというものの偶然近くにいた爆豪にくっついて離れず仕方なく抱っこしているらしい。実際爆豪が大きな声を出しても怯えるだけでぎゅうと服を握っている小さな手は依然そのままだ。もう……と息を吐き出した麗日はなまえに近づき目線を合わせてにこりと微笑む。


「こんにちはーなまえちゃん。私麗日お茶子っていうんだ、よろしくね」
「お……お茶子、ちゃん……よろ、しく」
「ンンっ……な、何歳?」
「よんさい、です」
「あかん……かわいすぎてつらい……」


両手で顔を覆い三歩後ろに下がった麗日に代わり今度は蛙吹がなまえに話しかけた。


「蛙吹梅雨よ。梅雨ちゃんと呼んで」
「梅雨ちゃん……?」
「ええ。梅雨ちゃんよ。なまえちゃん、好きなヒーローはいるの?」
「っオ、オールマイト!」
「かっこいいわよね。私も好きよ」
「うんっ! 私もね、大好きなの」


不安そうな顔から一転花のような笑顔を浮かべたなまえにおおと感嘆の声が上がる。蛙吹は皆の反応に「弟妹がいるから任せて」と頼もしく言った。そんな中後ろから何とか落ちついた八百万が爆豪に問いかける。


「爆豪さん、なまえさんはいつ戻るんですの?」
「少し触れた程度だったから午前中には元に戻るらしい。はっ、一生チビのままでいいけどな」
「? まあ、確かに小さいなまえさんはかわいらしいですものね。気持ちはわからなくはないですわ」
「そういう意味じゃねえ!!」
「爆豪くん! 大声を出しては緑谷くんが驚いてしまうっやめたまえ!」
「いや飯田も普通に声大きいって」


瀬呂のつっこみにハッと口を押さえた飯田はなまえに見られていることに気づき首を傾げてそちらを見た。


「……私男の子じゃない」
「?」
「ああ……なまえちゃん、飯田くんに緑谷くんって呼ばれてるからそれじゃないかな」
「むっ……しかし……」
「……男の子じゃないのに……」
「っ、なまえちゃん!」
「うん!」
「……すごいわね、天然の力って怖いわ」


なまえが名前で呼んでもらえたことに喜んでいると、突然頭に何かが乗ってぴゃっと肩を跳ねさせた。確認すれば横から轟が手を伸ばし頭を触っている。実はずっと気になっていた人だ。髪の毛の色が片方ずつ異なっていることや火傷の理由など聞きたいことが頭に浮かんでは消えていく。間近で見て思うことは一つだけだった。すごくかっこいい。爆豪は髪を撫でるように触る轟に気づいて自分ごとなまえを遠ざけた。


「近くに寄んじゃねえ!」
「悪い。じゃあなまえ抱かせてくれ。もっと触りてぇ」
「轟が言うとエロい意味にしか聞こえなへぶぅ」
「峰田ちゃん黙って」
「……だとよ。おい離れろ」
「……うん」


睨む爆豪は注意をし始めた飯田に任せて、轟はなまえを抱き上げると尋ねた。爆豪にくっついていた理由はあるのかどうか。するとなまえは片手を広げて轟に見せた。


「かっちゃんとね、同じ匂いがして……安心したの」
「ああ」
「私、かっちゃんの匂い好きだから……」
「そうか」


なるほど、だから無意識に爆豪に懐いてたわけか。轟は納得してなまえの背中をぽんぽんと優しく叩く。力加減はこれでいいのか不安だったが特に痛そうな顔はしなかったためよかったと信じたい。


「俺の匂いは嫌いか?」
「……ううん、なんだか、落ちつく」


ぎゅうと轟にしがみついて匂いを嗅ぐなまえがふにゃりと破顔する。轟もふっと笑ってなまえを幸せそうに見つめた。完全に二人きりの世界に入っているなまえと轟に蛙吹は顎に指を当てながら呟く。


「絵面が犯罪だわ」


傍観していた耳郎が頷いた。なまえはその日元に戻るまでリカバリーガールの元で過ごしたという。


子どもになっちゃった!



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