「まぁ〜〜〜!」
「ヤオモモ気持ちはわかるけど落ちついて」


興奮した様子で頬を緩ませる八百万に芦戸は苦笑し、彼女が興奮するに至った少女に目を向けた。麗日の席に座った1-Aに在籍する少女――緑谷なまえは恥ずかしそうに縮こまり俯いている。なまえの顔がすぐに赤くなるのはいつものことであったが、よく見ずともいつもと違うところがあった。ひょこりと彼女の頭部から覗く二つの耳と尾てい骨から生えているであろうスカートから覗く尻尾。事故でなまえが猫の"個性"にかかってしまっているのは一目瞭然だった。元々他の動物を猫に変えてしまうという"個性"で、人間にかかったことで弱まったのかなまえは完全に猫にはならず耳と尻尾が生えただけだ。それでも恥ずかしいものは恥ずかしくて小さくなるしかない。耳も尻尾も一日で消えるだろうと言われ、今日一日限定のなまえを見ながら1-A女子たちはかわいいかわいいと言い盛り上がった。


「ねえなまえ……耳触っていい? 気持ちよさそう……」
「耳郎さん……うん…いい、よ」
「ありがと。……おお…やばい」
「いいなぁ次私、私ー!」


葉隠がテンション高く声を上げると耳郎以外の手の感触がしたので葉隠も触っているのだろう。ややくすぐったいがなまえはただ大人しくするしかなかった。


「なまえちゃん猫って何て鳴くんだったかしら」
「え……? に、にゃあ?」
「梅雨ちゃん頭よすぎやんっ!!」
「ひえ」


蛙吹が携帯を片手になまえに鳴き方を尋ね答えれば麗日が頭を抱えて膝から崩れ落ちた。ちなみにピロリーンと音がしたので動画撮影していたのは確実だ。全く麗かじゃない顔を上げた麗日は蛙吹にグッと親指を立てる。周りを見れば同じような反応をされた。蛙吹が出来心でやったことは皆のためにもなったらしい。


「女子ばっかずりぃ……緑谷の猫耳……」
「なまえさんに少しでも近づいたら許しませんわ」
「峰田ちゃん最低よ」
「上鳴もダメだから」
「何で俺もだよ!」
「緑谷セコム多すぎんだろ!!」


耳郎が上鳴を睨みながら言えば峰田と共に二人で机をバンバン叩いていた。どうして触らせてもらえると思ったのかが不思議だ。今にも血涙しそうな峰田は目が合った者と次々に絡んでいく。


「幼なじみのかわいい姿! そこんとこどう思う爆豪よお!」
「うぜえ話しかけんな!」
「猫耳尻尾って最高にかわいいよな障子!」
「俺に振られても困る」
「ぶっちゃけ触りたいって思うオイラ間違ってないよな轟!!」
「そうだな。触りたい。……というか、なまえは別に耳と尻尾なくてもかわいいだろ」
「!?」


なまえが目を見開いて轟のほうを向く。首を傾げてさも当たり前だろとでも言いたげな轟に誰かがひゅうと口笛を吹いた。なまえの視線に気づいた轟は女子たちの元まで足を運ぶと触っていいか? と許可を取ってくる。こくこく頷くしかなくて目をぎゅっと瞑った。


「轟はいいのかよ!」
「轟さんのことは信用していますので」
「ケロッ」
「上鳴なまえを視界に入れないで」
「とうとう見るのまで禁止された!」


触るのに満足したのか轟はそっと撫でてきた。耳の裏を器用に撫でられるのが気持ちよくてなんだか眠くなってくる。うとうとしかけたところではっとして目を開けた。


「あ、危なかった……轟くん撫でるの上手だね……」
「そうか? なまえが痛くないように優しく触っただけだ」
「ふふふ」


目を細めて笑うなまえに轟も微笑で返す。再度撫でながら「飼いたい」と口走った轟に誰も突っ込むことはなく皆がただ頷いていた。

無事次の日には耳も尻尾もなくなっていたが、それからというものの轟によく頭を撫でられることとなるなまえだった。



猫みみが生えた!



戻る