はくしょんへくしゅん



「ぶえっっっくしょい!!!!!」


「随分豪快だな。くしゃみくらい、ちったぁ女らしく出来ねーのかィ」





ずびずびと鼻をすする神楽を横目に、盛大なため息を吐く沖田。


頬を撫でる風はすっかり暖かくなり、街を歩けばそこら中から春の匂いが漂う。





「うっせーなあ、地球のカフンっていうのは夜兎には合わないみたいアル」


「宇宙最強の名が泣くぜィ。目も鼻も真っ赤じゃねーか」


「痒くて仕方ないアル。春は大好きなのに、毎年こうなるのは心外ネ」





ポイ、と神楽が投げた鼻かみティッシュは、綺麗な放物線を描いて屑箱へと収まった。





「そのザマじゃ花見には行けそうにねーな」


「花見?また叩いて被ってなんちゃらするアルか?」


「お望みならしてやらねーでもねーけど。桜の下で、ただ飯食って酒を呑むのもなかなかオツなもんだろィ」





そう言いながら、沖田は読んでいた新聞のとある面を神楽に見せる。


眉を顰めながら一生懸命に漢字を読もうとする神楽を内心可愛いと思ったからなのか、沖田は少し頬を緩めた。





「江戸でも桜が咲き始めたって書いてあんだよ。桜並木がある場所では屋台も出るらしいぜ」


「屋台!食べ物たくさんアルか?!」


「…三つまでなら奢ってやらァ」





物で釣るなんて我ながら狡いとは感じたが、それでも彼女が喜んでくれるなら。


奢るの一言ですっかりテンションが上がった神楽の手から滑り落ちた新聞を拾い、沖田は神楽の鼻を摘んだ。




「花粉症だから行かない、とは言わせねーからな。どれだけ目が痒かろうが鼻が詰まろうが無理矢理連れてくぜィ」


「ゴーグルと毒ガスマスクを用意してでも行くネ!お祭りキャッホーーーーイ!!!」




鼻を摘まれているせいで、鼻声なのにも関わらず嬉しそうにぴょんぴょん飛び跳ねる神楽と、それを彼らしからぬ優しい目で見やる沖田。



実は先程の新聞は一年前のもので、今年の桜はまだ咲いてすらいないことを神楽は気付いていないけど。





「おい、鼻水出てるぜィ」





その沖田の余計な一言でいつものような取っ組み合いになる。


桜の下でこいつと喧嘩するのも悪くねェ、沖田がそう思ったことも神楽は気付いていない。





end.


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