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風邪引きの迷子を保護しました
くあー、と大きな口を開けて欠伸をひとつ。
空気こそ肌寒いが、頭上に広がる空は青く澄み渡り今日もいい天気。
絶好のサボり日和だといつもの如く沖田はパトロールと称したサボりタイムを堪能していた。
公園のベンチに座ってぼんやりと辺りを眺めていると、公園の一角でしゃがみ込む赤いコートを着た見慣れた後ろ姿を発見した。
「チャイナじゃねーか」
沖田と神楽の間には大分距離があるせいで、沖田の言葉は独り言として澄んだ空気の中へ消える。
あんなところで一人でしゃがみ込んで何をしているんだと思いながらしばらく彼女の様子を見ていると、どうやら肩で息をしているようだった。
何かがおかしいと感じた沖田はベンチから腰を上げる。神楽に近付くにつれて彼女の苦しそうな呼吸が大きくなっていった。
「おい、どうした?また食べ過ぎで動けなくなったんじゃねーだろうな」
声を掛けると神楽は荒い息を繰り返しながらゆっくりと真っ赤な顔を上げる。
「…風邪移されたくないんだったらさっさと離れるヨロシ」
「風邪ってお前、相当熱あるんじゃねーの?何でそんなフラフラの状態でこんなところにいるんでィ」
「銀ちゃん、明日大事な仕事があるって言ってたネ。一攫千金のチャンスなのに銀ちゃんにまで風邪が移ったら困るアル」
「だからってわざわざ公園に来ることねーだろィ。誰かしら面倒看てくれる奴がいんだろーが」
「姉御と新八は出掛けてるから無理ネ。バーさんの所も年末年始ずっと忙しくしてたから厄介になりたくないアル。」
ずびずびと鼻を啜る神楽を見て沖田はため息をついた。
「お前がそんなに気ィ遣える奴だとは思わなかった。けど、こんなとこにいちゃ治るもんも治んねーぜ」
そう言うと沖田は強引に神楽を持ち上げて肩に担いだ。
思っていた以上に熱は高いらしく、服越しにも関わらず彼女の体温がじんわりと肩に伝わる。
「ちょっ…!どこ行くネ!降ろせヨ!!」
「屯所。」
「ハァ?何で私がお前らの厄介にならなきゃいけないアルか!絶対嫌アル!」
「うるせーな。俺ァただ迷子を保護しただけだっつーの、そいつがたまたま風邪引いてたってだけのことでィ。分かったら黙って大人しくしてな。」
公園の入り口に駐車していたパトカーの後部座席に神楽を放り込んで、沖田は屯所へと車を発進させた。
いつのように殴る蹴るされるかと思って運転しながら身構えていたものの、どうやら彼女は相当しんどいらしく、大人しく後部座席で横になってるだけだった。
「着いたぜ」
後部ドアを開けて沖田が声を掛けても返事は無い。
どうやら屯所までの道中で神楽は寝てしまったようだ。
「…ったく、何が『何で私がお前らの厄介にならなきゃいけないアルか!』でィ。手間かかりすぎなんだよ」
やれやれと思いながらも、沖田は神楽を起こさないようにゆっくりと抱き上げる。
相変わらず身体は熱いままだが、眠っている分呼吸は先程より幾分マシなように思えた。
「帰ってきたか総悟、今日は随分と早かったな!…ってアレ?チャイナさん?」
「しーっ。近藤さん、この状態で起きられると面倒なことになりまさァ。コイツ体調があんまり良くないみてーで、ちと寝かせてやってくれやせんか」
「別に構わんが…。総悟がチャイナさんを心配するなんて珍しいこともあるんだなぁ」
「心配?そんなもんしてやせんよ。コイツが元気になった時に、今日のことにつけ込んでしばらくパシりにしてやろうと思ってるだけでさァ。」
「…ハハハ、総悟らしいな!空き部屋にでも寝かせてやれ」
どうも、と近藤に軽く頭を下げて屯所の廊下を歩く。
その沖田の後ろ姿を見る近藤の顔は笑みを隠せないといったようなにやけ顏で。
「何ニヤけてんだ近藤さん、気持ち悪ィ」
「おおトシ!見ろ、総悟にも春が来たのかもしれんぞ」
「ああ?…ありゃ万事屋んとこのチャイナ娘じゃねーか。何でこんなとこにいんだ?」
「まあまあ、細かいことはいいじゃないか!さて、ムサいおっさん連中は退散するとしようか」
「連中って俺もおっさん扱い?!百歩譲っておっさんでも俺はアンタほどムサかねーよ!」
そんなやり取りを背後耳に、沖田はいつもの如く死ね土方と呟いた。
しかしそんな物騒な言葉とは裏腹に、沖田の顔は普段より少し柔らかいものであることに、本人はまだ気付いていない。
end.
風邪っぴき神楽ちゃんを放っておけなかった沖田くんのお話。
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