ーーカシャン。
迷いこんだ廃村の一角に佇む大きな木の下で、青い反応をみせた射影機に導かれるように写し出した写真には、その木を見上げ佇む女性の姿が写りこんだ。
長い、ピンクの髪。暗闇でもそうわかる、珍しい......というよりも、日本人としてはまず他にいないのではないかと思える髪色が目を引く中、彼女はただひたすらに木を見上げていた。
......なんの木、だろうか。
花も葉も枯らしてしまったその木がなにを実らせるか、私にはわからない。
もちろん、その木をひたすらに見上げ続ける、彼女の想いも。
「......あ、澪、あそこ。なにかある」
お姉ちゃんの声に、私は示される方向へと目を向ける。そこはついさっきまであの霊が佇んでいた場所。なんの木かはわからないその木の下に、確かになにかが落ちていた。
とりあえず拾ってみよう。射影機は特になにも反応を示さないけれど、それでも一応警戒を緩めることなく、落ちていたそれに手を伸ばす。
「......手紙?」
近付いて気付くその正体は、一枚の紙片。拾い上げて確認した中身は、確かに手紙のようだった。
ーー桜へ。
そう始まる手紙は、皺だらけに歪んでいる。よほど嫌な手紙だったのか、それとも。
大切すぎて、ずっと握りしめていたのか。
「ねえ、澪。それ、なにかこの村のこと、わかりそうなものだった......?」
「......ううん、そういうものじゃ、ないみたい」
ーーこんな形で別れることになることを、望んでいたわけではないんだ。だけど、それでも......それでも、俺には他の選択をすることはできないから。
傷付けてしまって、すまない。苦しませてしまって、すまない。
君があんな顔をするのだということすら知らなかった俺だけど、でも......俺は、君に出会えたことで生きていることを楽しむことができたんだ。
今さらかもしれない。ううん、今さらでしか、ないんだ、きっと。
それでも。それでも、さいごにこれだけは伝えさせて欲しい。
俺は桜がすきでした。
立花睦月
ーーどうして。
「!」
読み終わった直後、どこからか女のひとの声が聞こえてきた。慌てて辺りを見渡すけれど、周囲に広がるのは相変わらず暗く暗い闇ばかり。
「澪?」
「なんでもないよ、お姉ちゃん」
射影機にも、反応はない。
それに、私よりもよほど霊感の強いお姉ちゃんがなにも言わないのだ。気のせい、だったのかもしれない。
「......行こうか、お姉ちゃん」
「......うん」
この村にはきっと、とてもふつうに......そう、ふつうに。生活していたひとだっていたのだろう。誰かを想って、誰かに想われて。そうして紡がれていく縁は、別の誰かの想いにかき消されてしまったのかもしれない。
そんなことを思いながら、けれどそれを表にすることもなく歩き出す。
私たちは、帰らないといけないから。
この村の闇に、飲まれるわけにはいかないから。
歩き出した私の視界の端で、ひらりと、なにかが舞ったような気がした。
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