はらり、はらり。

舞う薄紅の花弁が、私は嫌いだった。

誇るように狂おしくその腕を伸ばし、自らを大きく魅せるかのようにたわわに花を実らせるその木が、花が、私にはとても好きになれないものだったのだ。

儚くて、気高くて、だからこそ美しい。
みんなにそう評させるその花は、きっと私以外の誰もに等しく愛でられるもの。

それを私が好きになれないその理由は......。

その花弁と同じ、この髪色のせいだった。






序・桜色の出会い






何故、私はこんな髪色で生まれてきてしまったのだろう。

女故にと母に言われ、渋々伸ばしたままにしてある、腰まで伸びた自分の髪を一房掴み、息を吐く。忌々しさすら覚えるこの髪を、本当ならさっさと短く切ってしまいたいくらいなのに。それすら許さない母の髪は、みんなと同じ黒曜だというのに、何故私だけこうも違う髪色なのか。

今時分、春になると咲き誇る、この季節の代名詞とも言えるだろう桜の花。その薄紅の花弁と同色の髪は、私のこころを沈ませてやまない。

奇異と見られ、異質とされ、異端と畏れられる。災禍はこの髪のせいなのだとさえ囁かれ生きてきた私には、この髪を好きになれる要素などなかった。

私は、桜が嫌い。
この髪が、嫌いだから。

髪から手を離し、見上げていた桜からも目を逸らす。そうしてもう一度息を吐いた私は、早く家に帰ろうと踵を返した。

買い物を頼まれて渋々外に出たはいいけれど、あまり外に長居はしたくない。目に入ってしまった桜の木に、僅か足を止めてしまったが、そうしている間に村のひとに会おうものなら、なにを言われるかわかったものではないのだから。

だから早く帰らないと。そう気を急かす私の前に、彼は、緩やかに......静かに現れた。


「桜、嫌いなのか?」


はらり、はらり。
舞う薄紅の花弁が彩る彼は。

彼の方がよほど儚く見えるような、そんなひとだった。










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