民俗学研究会。なにをするかもなにが目的かもいまいちわからない、マイナーもいいところだろうそこは、宗方という会長を筆頭に、結構少人数で構成されているらしい。まあそれらしいと言えばらしいのだろうけれど。
とりあえず名前を覚えるまであまり労はなかった。なにせ宗方先輩以外には槇村先輩と美也子先輩、あとはわたしと同じ年の双子の男の子、立花樹月と睦月しかいないのだから。女性は美也子先輩だけだけど、その美也子先輩が美人だし頼りがいがあるしで本当いいひとなんだよね。槇村先輩の彼女さんらしいんだけど、その辺はまあいいとして、とにかく美也子先輩に会えたことはわたしにとってとても大きな喜びでもある。美人なのに性格いいとか、本当感動ものだ。
と。そんな感じに、わたしのサークルライフは順調な滑り出しをみせたのだった。
八・巡り繋がる
とりあえず。民俗学研究はオカルト研究に名を改めるべきだと思う。うん、とっても。
なんか会長が急にいっぱい本を抱えてきたかと思ったら、その悉くが都市伝説の類に関するもののようで。
……民俗学ってこういうのなの? 本当に?
胡乱に思いつつも、なんかやたら楽しげな会長にげんなりする。こういう子どもっぽいところ、嫌いじゃないけど、趣味はちょっと理解しかねた。
「とりあえずこれの内容を纏めて、調査もしたいと思うんだ」
ひとりでやってろ。
というツッコミが入らないことが、わたしには不思議でならない。類友の集まりだったのか、ここ。
「いやでもこういうのって、遊び半分だとよくないんじゃ……」
「ああ、その点は大丈夫。本気だから」
大丈夫ってそこかよ!? 本気度合いが高ければいいとか、そんな話聞いたことないよ!
会長のこれでもかと自信たっぷりな笑顔に、このひと本当に大学受験パスしてきたのかと怪しくなる。思わず美也子先輩に視線を向けたら、微妙な苦笑を返された。
そんな笑みすら美しいとか本当尊敬するけど、そうじゃなくて。誰か止めないの、って訊かなくても、一目見渡して悟る、みんなの諦め。というか、結構やっぱり類友……?
資料整理や新たな資料集めなどなんだかんだ着々進めていくみんなに混じり、その作業に移るわたしもまた、他の誰かから見たらきっと類友のひとりになるのだろう。……なんかちょっと……心外だけど。
「あ、睦月、そっちの資料、使い終わったなら貸して」
「了解」
「ありがとう」
わたしがここに興味を持った理由でもある双子の男の子。その片割れに告げ、持っていた資料を借り、今必要としているページを探す。
そんな時、ふと視線を感じて顔を上げれば、こちらをじっと見ていた美也子先輩と目が合った。
「どうしました?」
「あ、ううん。すごいなあ、って思って」
……すごい? わたしが美也子先輩を尊敬するのは当然だけど、美也子先輩にすごいなんて言われる要素、なにかあったっけ?
不思議に思って首を傾げれば、美也子先輩は小さく笑って視線を移す。改められたその視線の先には、あの双子の兄弟、樹月と睦月の姿があった。
「私、未だに区別つかなかったりするから。話せばわかるんだけどね、一目で判断できちゃう名前ちゃんがすごいなあって」
ああ、なるほど。確かにふたりは双子なだけあってよく似ている。ぱっと見わからないって気持ちわかる、けど……。
もう一度樹月と睦月を見やる。さすがに服装は違うけど、趣味も似ているということか、ジャンルがまったく違うということもなく、ふたりを見た目で判別するのはやはり難しいのだろう、と他人事じみて思いながら、それでも、とも思ってしまう。
それでも、わたしがふたりを間違えることはない。
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