「ありがとう、名前姉」


キレイに笑う、ふたりの女の子たち。似た容姿をもつ彼女らは、双子なのかもしれないと思う。


「名前お姉ちゃん、だいすき」


この手を小さな両手で包み込むように握る、かわいいかわいい女の子。ふわりと笑う姿がたまらなくいとおしい。


「きっとまた、会えるよな、名前」


その女の子の頭を撫で、少し寂しそうに笑う、黒髪の少年。そして。


「どこにいても見つけるから。何度だって、君を……名前を。だから」


黒髪の少年と似た顔立ちをした、白銀の髪の少年。彼はわたしを見つめてこう紡ぐのだ。


「一から、僕を見初めて欲しい」


何度だって、何度だって。僕は君を見初めるから。

確信と願いを込めた言葉は耳朶に心地よく響き、そうしていつも締めくくられる。



彼らは、誰なのだろう。







七・記憶の在処







すきなアーティストの唄が鼓膜を震わせ覚醒を促す。

夢を、みた。

ぼんやりと働かない脳で理解するそれは、いつもの夢であったとそんなこと。ただ、いつものことではあるのだが、その夢の内容までは覚えていない。どんな夢で、誰が出ていたかも忘れてしまう、そんな夢。

けれどそれでもいつもの夢だと確信できるのは、その夢をみたあとに決まって残る、この胸のじわりと滲む懐古と、一抹の寂寥感故にだった。


「……あ、っと、のんびりしてる場合じゃないや。支度しないとご飯食べ損ねる」


このアパートに越してきて一週間。大学に進学すると同時に始めたひとり暮らしには、想像以上に四苦八苦させられている。ご飯も自分で作らないといけない、というのもそのひとつだけれど、元より手伝いはしていた方。そんなに料理ができないわけじゃないことは救いだけど、それでも自分ひとりのためともなると勝手が変わる。

面倒くさいのだ、とても。

でも食べないとお腹減るし、入学して早々に講義中盛大に腹の虫が鳴ったら恥ずかしすぎる。ということで、適当に目玉焼きを焼いて、焼いたトーストに乗せるだけというシンプルメニュー料理を遂行した。ついでにレタスときゅうりで簡単に野菜もとる。

食事をとりながらカーテンの開けられた窓から空を仰ぐ。雲もまばらなその青に、今日は雨も降らなそうだとぼんやり思った。







「おはよー、名前」
「おはよー」


徒歩で向かう大学。交通機関を利用せずとも着ける場所にアパートを借りることができた幸いに、時間をゆっくりと使う余裕を持てたことが喜ばしい。ぎりぎりまで寝ていても眠いのだ、早起きしろなどと言われたらたまったものじゃない。

途中出会った友人と他愛もない会話を交わし、そうした中で紡がれる、その他愛もない会話の一部。


「ねー、名前はどこかサークル入る?」
「サークルー?」
「そ。あたしテニスにしようかな。テニスってほら、出会いって感じするし」
「不純だな、動機」
「いいのいいの」


で、どうするの? 一緒にテニス入る?

そう続けられた友人の言葉に、しばし悩む。運動は嫌いではない。むしろすきな方だ。だけど。


「んー、とりあえず、いいや」


ぴんとこない。そんな感じ。

サークル、か。あんまり興味もないしなあ。

そんな風に流す、校舎に貼られた呼び込みの紙。個性的なものが揃うそれらの内、もう一度テニスのサークルの確認をしたいと言った友人に付き添い、何とはなしに眺めて回る。運動系も多いが、技術系や明らか趣味だろってものもちらほら。これを見てるだけで充分お腹いっぱいな気になってきた。

そんな中、視界の端、貼り紙たちの端も端に貼られたそれに気が付く。


「……民俗学?」


研究って、なにするんだろう。ともすれば見逃してしまいそうなそれに書き記された文字を、思わず追ってみた。とはいえ詳しいことは直接との案内しかなく、なにをするのかというわたしの疑問への答えになりそうなものはなにひとつ書かれていない。


「あれ、名前? なにか気になるものでもあった?」
「え? ……あー」


テニスサークルの案内を確認し終えたらしい友人に声をかけられ、なんと返すべきか言葉を濁す。ただ目に付いただけ、というのも、気になったに入る話なのだろうか。


「民俗学? って、なにするの?」


わたしの答えを待つよりも、わたしの視線を追うことにしたらしい。さっきまでわたしが見ていた貼り紙を目に、友人が首を傾げる。見事なまでにわたしと同じ意見なそれに、思わず苦笑してしまった。


「さあ。わたしにもわかんない」







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