いくらこんな鬱々とした村だからって、天気のいい日はちゃんとある。青空きらめくそういう日は、さすがのこの村の空気も少しは明るくなってるような気さえするものだ。

つまり。

そんな日に外に出なくてどうするんだっていう、そういう話がしたいわけさ。で、本の虫と虚弱体質を無理矢理外に引っ張り出す役を引き受けて、かわいいかわいい千歳ちゃんの手を引きながら、八重と紗重との合流場所である村はずれを目指し、外を歩く。

何があるってわけでもない村はずれは、それでもちょっと高台になっているだけあって、村を眺めるにはいい場所だ。まあ一望してなにがあるってこともないんだけど。


「あ、来た! おーい、みんな、こっちこっちー」


先行していた八重と紗重のふたりがこちらに気付き、大きく手を振ってくる。わたしも千歳ちゃんと繋いでいない方の手を振ってふたりに応え、それから千歳ちゃんの目線の高さまで屈んで目を合わせた。

千歳ちゃんはあんまり目がよくないんだけど、だからってまったく見えていないわけじゃない。


「よーし、じゃあ千歳ちゃん、走るよー」
「うん」


ぎゅっと、ちょっとだけ強く握られた手。まったく見えていないわけじゃないとは言っても、視力が弱いということは駆けることにあまり向いてはいない。障害物を見落とす可能性だって格段に高いだろうし。

だけどこうしてわたしが手を繋いでいれば、千歳ちゃんは躊躇わずに頷いてくれる。それだけ信頼してもらえてるんだって思うと、なんだかとても嬉しかった。


「樹月と睦月はお弁当を落とさないように」
「はいはい。……ちなみに、今日のおかずは?」
「甘めの玉子焼き、ちゃんと入ってるよ」
「ほんとう!?」


睦月に答えた問いに顔を輝かせたのは睦月だけじゃなく。きらきらした目で見上げてくる千歳ちゃんが、本当にどこまでもかわいかった。


「本当。りんごもちゃんとうさぎにしてきたよ」


誰よりも千歳ちゃんのために! なんてちょっと胸張って笑えば、千歳ちゃんは嬉しそうに頬を染めて笑い返してくれた。もうわたし、この子がいれば生きていける……っ!



こんな毎日がずっとずっと続けばいいって、続くんだって、あの頃は信じて疑っていなかった。







参・きょうだい







はあ、もう本っ当空気悪い、この村。いや息する必要とかわたしにはないから、雰囲気で判断してるんだけどね。

気持ちも滅入るようなどんよりとした空気の中、わたしは樹月と一緒に八重と紗重の家、黒澤家を目指している。

もちろんそれはみおちゃんが向かった場所だからに他ならないわけだけど、なんだかんだ時間かけちゃったし……いやわたしのせいだけど、それはちょっと目を背けて……下手に飛んで移動してたりしたら行き違いなんてことになりかねないし、だからこうしてちゃんと道沿いに歩いていた。飛んだ方が楽しいんだけどね、ほら、わたし、横道逸れるの得意だから。

そんなわけで、横道に逸れないよう辺りをあまり見ないようにして歩いていたら、ちょうど立花家辺りでみおちゃんの姿を発見した。

なんだかここで縁あるみたい。そんなことを遠くで思いながら、とりあえず声をかけることから始めてみる。


「おーい、みおちゃん!」
「え? あ、名前さん」


一瞬大袈裟なほど体を震わせたみおちゃんは、振り向いてわたしの姿を認めると、安堵した様子で息を吐いた。まあ、こんな村だしこんな状況だし、意識のしっかりしてるわたしに安心感を抱くのは普通と言えば普通か。ていうか仕方ない、が正しいのかな。

わたしの傍まで駆け寄ってきたみおちゃんは、わたしの隣に立つ樹月を目に、少し驚いたような表情を浮かべてみせた。


「あれ、あなたは……」
「紹介しよう。彼女、お姉さん捜しに勤しむみおちゃん。で、こっちはわたしの……幼なじみ?」
「……そう、だね」


ん? なんか今、妙な感じが……。

まあ、いいか。


「ん、幼なじみの樹月。仲良くしてね」


よし、これで仲介役の任務は果たせた。なんかさっきは人違いをしてごめんだか樹月が言ってたりするけど、その辺はもうわたしには関係ないし。あとは若者同士で好きにすればいいよ。

なんて、のんきなこと言ってる場合じゃないか。


「で、みおちゃん、お姉さんは見つかった?」
「あ、はい。その……見つけるには見つけられたんですけど……」


ふむふむ。なんかいろいろあって、勝手に徘徊されてるわけだ。黒澤家の牢に閉じ込められたはずのお姉さんが、ついさっき桐生家と立花家を結ぶ渡り廊下を歩いていただなんて、人間離れしているにもほどがある。

みおちゃんのお姉さんってまさか、すごい異能を持っているとかだろうか。

まあそれは会った時にでも聞くとして、とりあえずそのためにもまずは合流の手助けをしないと。


「じゃ、ちょっと待っててね、みおちゃん。この扉開けてくるから」
「お願いします」


これから向かわなければならないはずの立花家は、どうやら固く扉を閉ざしているようで。その鍵くらい今のわたしならするりと外してこれるわけですよ。

というわけで壁をすり抜け中に入り、玄関の扉の鍵を開けようとした、ん、だけ、ど……。


「お、おおおお……っ。あ、開けられぬ……っ!」


物理的にすり抜けるからとかそんな話じゃなくてね。便利なことに触れるには触れられるんだけど、なんていうんだろう、これ。


「ね、ちょっと樹月、この扉、呪われてる!」







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