たぶん、ていうか絶対。うん、絶対だ。

みんながみんな、事あるごとに……ううん、暇さえあれば暗鬱とする原因、この村の空気自体にあると思う。わたしってほら、そういう能力? ないし、全っ然なんにもみえないんだけど、いやむしろみえなくていいんだけど、絶対その辺うようよしてるよね。幽霊って言うの? そんな感じのもの。


「だーかーらー! イヤなものはイヤって言う!」
「そういう問題じゃないって話、したはずだけど?」
「だって納得できないし!」


目の前の樹月……には怖くてできないから、右隣に座ってた睦月の頬をこれでもかと引っ張ってやる。むむ、男のくせにわたしよりすべすべしてるんじゃないか、この肌! やっぱりあれか、米のとぎ汁! 使ってないだろうけど。


「睦月も睦月! こんな馬鹿げた風習にのっかってないで、体力つけるの! わたしより細い腕とか腰とか認めない。肥えろ!」
「無茶苦茶だって、名前。だいたい、この儀式だって村のために必要なものだろ。馬鹿げてるとか言っちゃダメだ」
「わたしは何度でも言うよ、馬鹿げてるものは馬鹿げてるもの。村のため、って、そもそもひとなくして村たりえないわけでしょ? その「ひと」の命を犠牲にしてまで存続させる器なんて、所詮どこまでも空虚だ」


そんなもの、むしろ滅びてしまえ! なんて、そこまで言えないくらいには思い出や思い入れがこの村にあってしまうことは事実なんだけど、だからってこの村の儀式には欠片たりとも納得しない。

紅贄祭。名前なんて正直こころの底からどうでもいい。そんなご大層な銘を打たれたその内容は、祭なんて華やかで楽しいものなんかじゃ全くない。……まあ、表だけ見るなら話は別だけど、そんなものただただ見てくれだけ綺麗に着飾ったに過ぎないわけだし。

とにかく。要約すれば、村のために、村に産まれた双子の兄または姉が、双子の弟または妹を手にかけるって儀式が行われる日。そうしないと村は滅びるらしいんだけど、わたしとしてはそんな方法でしか守れない村なんて、ひとを受け入れる器たりえないと思う。

そんなものに犠牲を強いられるのが樹月と睦月に決まったなんて、そんなこと絶対納得しない。


「そうかもしれないけど……でも、代案があるならとうにそうしているはずだろ? 仕方ないんだよ、こればっかりは」


仕方ない? 睦月のくせに笑わせてくれるじゃないか。

わたしが、樹月が、気付いてないとでも思ってる? ……ううん、もしかしたら樹月には自分から言ったかもしれないけど、まあそれはそれとして。

仕方ないなんて言っている睦月が、自分でもこれを受け入れて望んでいることくらい、お見通しだっていうんだ。

体が強くないことを言い訳に、樹月を縛ろうとしてる。双子の気持ちなんて一人っ子のわたしにはわかる術もないけれど、でもそれでも、睦月の考えが間違ってることくらいはわかっていた。

だって。


「仕方ないって、じゃあ樹月はどうなるの? 千歳ちゃんや、わたしや、八重や紗重はどうするの? 遺されるひとは、その悲しみをどうすればいいと思ってるの?」
「名前……。ありがとう、でも、いいから。君がそう思ってくれているだけで、僕も充分だから」
「よくない! だったらなんで、樹月、泣きそうなのさ!? 樹月を悲しませて、苦しませて、それで何が残るの!? わたしだって……っ、睦月がいなくなったら泣いてやる……っ」


情けない。言いながら既に泣きそうだなんて。

だけど伝えなくちゃ。他の方法もわからないくせに無責任かもしれない。でも、それでも伝えなくちゃ。

こんなの、間違ってるって。



わたしはたぶん、自分で思うよりもずっとずっと……こども、だったんだ。







弐・邂逅







ふわりふわりと浮かんで移動。便利だし楽しいしいいなこれ、なんて思ってたら、ついうっかりその辺の地縛霊らしきおじさんと目が合ってしまった。虚ろな目でじっと見つめられて背筋がぞわりとしたけど、元よりこんな村で生活してきていたせいか、全然恐怖はわいてこなくて。しばしにらめっこをしてやってみた。

行く場所ある上にみおちゃんのことだってあるのに、ついうっかりしすぎだろうと我に返った時は既に遅く。負けず嫌いなわたしとしては、先に目を逸らすなんてそんなこと許せるはずもなかったため、意地になって睨みつけ続けてしまった。

結果、わたしの中から滲み出て……いや、溢れ出ていたかもしれない何かに圧されたらしいおじさんが、ふいと目を逸らしたためわたしの勝利でにらめっこは終わり。わたしは無事……まあ予定よりはだいぶ時間を無駄にしたけど、とにかく目的地に辿り着くことに成功した。

目的地……村の隅にある蔵の前に、わたしはゆっくりと降り立つ。見つめる大きな扉は、あの時と変わらずきっちり閉められていた。



──私たちのせいだよ。



脳裏に甦る、濡れた声。それを思い返しながら、目を閉じる。

あの日、彼女はずっと、泣いていた。

彼女のせいなんかじゃないのに。彼女たちのせいなんかじゃないのに。

それでも、彼女は泣いていた。

認めたくなかったのかもしれない。自分を責めることで、悲しみから自分を守ろうとしていたのかもしれない。

わからないけど、でも、現実は変わらなかった。







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