「いい? 白玉は食感が重要なんだ。こうして豆腐を混ぜ込むとね……」
「わ、凄い名前姉! お湯通す前から違いがわかる!」
「でっしょー? さあ、じゃあ千歳ちゃんも混ざってみんなで丸めよー!」


甘いものはいつだって女の子の味方だと思うんだ。今日はなんかとてつもなくあんこが食べたい気分になって、どうせなら白玉と一緒に食べたいってところまで欲求が進んでしまった。ので、せっかくだしと誘ってみたのは数少ない同年代の女の子たち。

八重と紗重と、あと年齢はわたしたちよりだいぶ下がるけど、立派にかわいい女の子である千歳ちゃん。

女の子の集いだから樹月と睦月は蚊帳の外。でもわたし優しいから、おみやげ用にちゃんとお饅頭作ってあげてる。帰りに千歳ちゃんに持っていってもらおう。

いや、家まで送るからわたしが持っていってもいいんだけどさ。


「あとこれ寒天。はーい、じゃあ黒蜜かけるひとー」
「はーい!」


あんこに白玉に寒天に黒蜜……ああなんてすてきな空間……っ! わたし、この中でなら溺れ死んでも構わない……っ! 泳ぐの得意だけど。

みんなで作った手作りあんみつ。口いっぱいに広がる甘味にしあわせを覚えるわたしたちの表情は、たぶんとろけるようなしあわせ笑顔だったと思われた。







壱・開始と行動







「うおあああああ……っ! ちょ、みおちゃん、見て! 見て見て! わたし……浮いてる……っ!」


おおおお……っ! なにこれ便利っていうか感動……っ! ちょっと意識するだけでこうも簡単に宙に浮けるなんて……っ!

調子に乗って浮かびすぎたら立花家の屋根のちょっと上の辺りまできちゃって、ふと我に返ったところで地面との距離に背筋が冷たくなったような気がして慌てて降りる。いや、もう死んでる身だし、これ以上死にようはないってわかってるけどね。

ついでにちょっと試してみたら、壁とかもすり抜けられた。あっちこっち入り放題って便利だけど倫理的にこう……まあ、利用すべきとこでは躊躇わずに利用するけどね。


「……名前さん……楽しそうですね」


あんまりはしゃいでたら、みおちゃんに呆れられてしまった。自分が死んでるって自覚できてるくせに、それを利用して楽しみまくってるわたしの姿は、彼女にしたら困惑ものなのかもしれない。

まあでもほら、ねえ? 過ぎたことぐだぐだ言っても仕方ないし? せっかくなら満喫すべきっていうか。


「あ、で、なんだっけ? みおちゃん、お姉さん捜してるんだっけ?」
「あ、はい。双子の姉で……えっと、繭っていうんですけど……」
「んー、残念ながらわたし、ずっと彷徨える幽霊やってたみたいだし。みおちゃんに会うまで自我もなにもあったもんじゃなかったから、ちょっとわかんないや」


わたしが自我を取り戻したのもたぶん偶然だし。みおちゃんがこの村で拾ったっていう、元は真壁さんが村に持ち込んだ射影機のお蔭みたいだけど、除霊する能力のあるらしいそれでなんでわたしは無事で、しかも自我を取り戻すことができたのかやっぱりわからない。

なんかこう、なにかがふわーっと抜けていって、その代わりにひょいってわたしが戻ってきたような感覚はしたんだけど。ふわー、ひょいってなんだって感じだよね。

あ、ちなみに真壁さんは民俗学者だっていってたおじさん……おじいさん? いや、おじさんか? まあどっちでもいいや。……そういえば、結局真壁さんってどうしたんだろ。無事に逃げられたのかな。


「そうですか……。あ、でも、とりあえずどこに向かったかはわかっているんで、捜しに行ってみます」
「え、わかってるの?」
「はい。この先の大きな門の向こうに。お姉ちゃんがくぐり抜けたら門が閉まっちゃって、それで今鍵を探してきたところだったんです」


大きな門……って、それ、八重と紗重の家!? なんでまたそんなところに……村から出るならそっちじゃないだろうと思う。

みおちゃんがその気みたいだから話は早いけど、この村、あんまり長居はしない方がいい。特にみおちゃんたちが双子だっていうなら、余計に。

……にしても、黒澤家か……。うううーん、考えすぎ、ならいいんだけど。


「よっし、じゃあわたしもふたりが帰れるよう手伝うよ!」
「え!?」
「ほら、勝手わかってる奴いた方がいいだろうし」


……今度こそ助けないと。

みおちゃんをあの時の八重や紗重に重ねてみるのは良くないと思う。こんな思いだって、単なる自己満足に過ぎない。

わかってるけど……それでも、今度こそ。

もうこの村のために、誰かが犠牲になるなんて嫌だから。


「あ、でもごめん。先にわたし行きたい場所があるんだ」
「行きたい場所?」
「そ。ちょっと気持ちを改める意味も込めてね」


繰り返さない、繰り返させない。

守れなかったものはもう戻ってはこないけど、まだ間に合うものが今、この手の届くところにあるから。

まあ幽霊だから触れられはしないんだけど、そこはほら、気持ちの問題っていうか。とにかく。

あの時の絶望と後悔を思い出して、自分を戒めてこよう。そしてそれを抱えてもう一度踏み出そう。

いや、浮いてるけど。

まあ細かいことは言いっこなしってことで、そういうわけだから。


「ちょっとの間だけがんばってて。なるべく早く合流するからさ」
「あ、はい。ありがとうございます」


んじゃ、ひとっ飛び行ってきま……あ。


「そうそう、みおちゃん、お姉さん見つけたらさっさとこの村出なきゃダメだよ。間違ってもこれから行く屋敷の奥には行かないように」
「え? それっていったい……」
「双子にはよろしくない村なの、ここ。てことで、気を付けてね」


よし、注意完了。ま、すぐ合流すればだいじょうぶでしょ。……たぶん。

まあ当然といえば当然のように首を傾げて不思議そうにしているみおちゃんを置いて、わたしは目的地へと急ぐことにした。











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