よし。

心機一転、気合いを入れ直して集めた眠りの家の情報を纏めよう。

優雨のことに強いショックを受けたのは事実だけど、私には立ち直るための力があるから大丈夫。

傍に螢がいてくれる。

それは私自身が思っていた以上に強さになるって気が付いた。

私はやっぱり螢に守られてるんだって思うと、少し気恥ずかしくて凄く嬉しくて暖かい。

そう、だから。

だからこそ、私も螢を守らないと。

螢を失いたくないから、掴んだ手を絶対に離したりしない。

私は未だに眠りの家の夢をみれなくて、それが酷く悔しいし歯痒いし腹立たしいけど。

まずはできることを全力で成したいと思う。










七 「前進」










「……怜さんの家に?」


螢の家のリビング。

そこにこれでもかと眠りの家の資料や以前螢と行ったあの廃屋の写真などを広げ、もう一度内容を確認しながら纏め作業をしている最中に螢が持ち出した話題。

それは怜さんの家に向かう、といった内容だった。

どうやら螢は怜さんと眠りの家についての調査を続ける約束を交わしていたらしく、それの報告をしたり怜さんの集めた情報を聞いたりするためにも一度彼女の元を訪ねようというらしい。


「それっていつ?」
「んー、これをきちんと纏めてからだが、早ければ明日か明後日の内にはって思ってる」
「……また随分急な話だね」


まあ資料の方は纏め作業も順調だし、できないことはないと思うけど。

それにしたって私との相談期間が短いとは思わないのかな。

状況が状況だから駄目だなんて言えないけど、でも彼女として複雑じゃないとは言い切れない。

……優雨のことを考えると、心が狭い気もするけど。

怜さん、きっと寂しいだろうし不安だろうから、同じ夢に囚われている螢が傍にいたら心強いだろうな。


「若菜はそれでいいか?」
「え?」
「え、って……。若菜も一緒に行くだろ? ……優雨に、線香くらい上げないと」


あ、そう、だよね。

そっか……何だ、私も含めてくれてたんだ。

何だかちょっと、嬉しい、なんて。

……怜さんに悪いかな。


「うん、私なら大丈夫。いつでも行けるよ」
「そうか。なら早くこれ纏めないとな」


……うん、螢と一緒ならたぶん大丈夫。

正直、本当は怜さんの心配ができるほど優雨のこと立ち直れていないけど。

ううん、それどころかまだ実感だって乏しいんだ。

信じられなくて信じたくなくて、無意識にその事実を心の底に押し込んでしまったんだろうって思う。

それを怜さんの家……私にとっては優雨の家だったそこに行くことで思い知らされてしまうことが……本当は、凄く怖い。

でも、それでも怯めない、怯まない。

……大丈夫、きっと。

螢が、いてくれるから。


「あ、そうだ、若菜。俺、もしかしたらあの夢……いや、あの巫女に対する解決法を見つけたかもしれない」
「え!?」


巫女とは夢の中で螢が会ったっていう体中に刺青が刻まれた女性のこと。

今まで集めた文献や資料からすると、近しい者を喪った悲しみ……柊と呼ばれるらしいその痛みを刺青という形で身に刻まれ抱え込まされた女性がその巫女みたい。

たぶん螢のみる夢はその巫女である女性が媒体となって生まれているんだろうとは思うけど……。

その原因は、わからない。

彼女が何故こんな夢を生み出して、そしてそこに多くの人を引きずり込んでいるのか。

想像ならできるけれど、その想像も何か違う気がする。

私は直接彼女に会ったわけじゃないから確信めいたことは何ひとつ言えないけど、でも……。

……なんかもやもやする。






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