夢をみた。

それは白い雪の舞う、古い日本家屋の夢なんかじゃなくて……。



大事な……友人の、夢。










六 「哀惜」










胸騒ぎがする、というのはこういった想いのことなのだろうか。

あの夢をみて目覚めた私は、どこからか沸いてくる不安と焦燥に駆られ、困惑も強く纏まらない思考をとにかくどうにか働かせていた。

何で……あの夢自体はそんなに特別なものでもないはずなのに……。

どうして私はこんなにも不安を……畏れを、抱いているの。

何に怯えているかもわからないというのに、一向に止まる気配のない震えに苛まれる中、思い返す夢の内容。

それはまるで、たった今現実で見たかのように鮮明に脳内で蘇る。

私がみた夢は螢や澪ちゃんがみているような眠りの家の夢じゃない。



私の、そして螢にとっても大事な友人である……麻生優雨の夢。



優雨が私の目の前に立って、語りかけてくる夢だった。



――若菜、頼む。怜を助けてくれ。怜を、守って欲しい。



優雨が恋人の怜さんを強く想っていることは知っている。

私も螢に出会うまでは優雨のような恋人が理想像だったし。

でも、だからこそその言葉は酷く不自然で。

怜さんの身に何かが起きているのか、もしくは何かがこれから起こるのかはわからないけど、優雨なら私に頼らなくても自分で怜さんを守るはず。

もし私の霊力を必要としての頼みなのだとしても、わざわざ夢で告げなくても直接伝えれば済むこと。

それをしない……ううん、もしもできないのだとしたら……。


「何、考えてるんだろう、私。あんなの……ただの夢じゃない」


不明瞭な不安に駆られているせいか、思考がどんどん暗く落ちてゆくため、私はそれを払拭するかのように一度首を振り、日課になってきている螢の家を訪ねることにした。

ほら、もしかしたら前に螢に助言した、優雨へ送った質問への答えが返ってきているかもしれないし。

まるで自分に言い聞かせるかのように思考しつつ、いつものルートを辿って辿り着いた螢の家の玄関の呼び鈴を鳴らす。

いつもならすぐに出迎えてくれる螢が今日はしばらく待っても出て来なくて。

訝しみながらももう一度呼び鈴を鳴らし、また少し待ってみる。

それでも出て来ない螢に、出かけているのかなと首を傾げながら、肩から提げていた小さなバッグの中を漁った。

そこから取り出した財布を更に改め、中から小さな鍵を取り出す。

それはいつでも中に入れるようにと螢から預かった、螢の家の合い鍵だった。

少し待てば帰ってくるかなと考えつつ、それまで家で待たせてもらおうと鍵穴に鍵を差し込む。


「……あれ?」


開いてる……?







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