澪ちゃんの眠っている時間が日に日に伸びている。

それは螢ほど長く傍にいるわけではない私にも、判然とわかる事実。

眠りの家の伝承が真実なら、このままだと危険だ。

澪ちゃんが、帰ってこれなくなってしまう。

病室から螢が席を外した時、眠り続ける澪ちゃんと二人残っていた私に、ずっと澪ちゃんの傍にいる繭ちゃんが、悲しそうな不安そうな表情を浮かべながら願った。



――お願い、若菜さん。澪を助けて。私はここに……澪の傍にいるって、伝えて。










五 「願い」










結局、今日の面会時間中に澪ちゃんが目を覚ますことはなくて。

私と螢は互いに口数も少なく、いつものように近くの定食屋で食事をとることにした。

時折、というよりも、しばしば螢が思考に耽るその姿がここでも見受けられ、私は首を傾げる。

何だか今日は螢の様子がおかしい。

初めは澪ちゃんが心配で考えごとに耽っているのかと思ったけど、何だか違う。

私が声をかけると必要以上に戸惑ってみせるし、訊いても何でもないの一点張り。

まるで私に何か隠しているみたいなその態度に、いい加減私も訝しく思う。

こんな時だし浮気はないだろうけど、あからさまな隠しごとをされるとやっぱり嬉しくはない。

だからこそ、今度こそ聞き出そうとそう思った。


「螢、私に何を隠してるの?」


びくり、と。

低く尋ねた私の言葉に、螢の肩が大きく跳ねる。


「え? いや、何も隠してなんか……」
「嘘。言えないことなら無理に聞かないけど、でも今日の螢、おかしいよ。絶対私に隠しごとしてる」


確信を持ってきっぱり言い切れば、螢は小さく呻き声をもらし。

困ったように数度辺りに視線をさまよわせた。

そんなに言いにくいって、私には言えないことなのかな。

それとも、私は頼りにならない?

そう考えて少し悲しくなり俯いた私に、螢から慌てたような声音が降る。


「あ、いや! 疚しいことはないんだ、全然! ただ……」


不自然に切られた言葉。

言いかけて止めたようなそれに、私は顔を上げて螢を覗き込む。


「……ただ?」


続きを問えば、螢の瞳が揺れた。

それは螢の言葉通り、疚しいことを隠そうとしているからではなく。

不安そうな……そして私を案じるかのような、動揺からのようだった。


「螢、私のことを心配してくれているなら大丈夫だよ。私、これでも結構強いと思うし」


どういう意味での強さが求められるかはわからないけど、でも、螢の負担にはなりたくない。

私のために何かを抱えているなら、なおのこと一緒に背負う資格が私にもあるはず。

安心させるようにできる限りの優しさと強さを込めた笑顔を浮かべれば、螢は少し視線を落とし。

小さく、少しずつ、口を開いてくれた。


「若菜を、巻き込みたくないんだ」
「巻き込む?」


澪ちゃんのことなら一緒に解決法を探すって決めたのに。

他に何に巻き込むというのだろう。

今澪ちゃんのこと以外にそれ以上大変なことはないと……。



――え、もしかして。



思考を巡らせ考え付いたそれ。

外れていて欲しいと願いながらも、そう考えればすべて納得できるということに、背筋が冷たくなるような感覚を覚える。

まさか、まさか螢は……。


「螢、もしかして……夢を、みたの?」







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