螢の仕事も一段落したということで、私たちは久々に一緒に遊びに行くことにした。
まあ久々なのは一緒に出かけることであって、会いに行ったり電話を掛け合ったりは毎日のようにしていたんだけど。
でもやっぱりこうして二人で出かけるのはやっぱり違うよね。
だって……いわゆる、デート、だし。
二 「胎動」
ぶらぶらしながら買い物をしたりしているだけで、時間なんてあっという間に過ぎてしまって。
螢といるのが楽しいからだという理由が大きいのだろうな、なんてひとり幸せに浸りながら、私たちはお昼ご飯を食べるために近くのファミリーレストランへと入った。
螢との外食って普段は割と定食屋さんが多いから、少しだけ新鮮だったりもする。
雑談を交えながら二人でメニューを見て食べたい料理を注文。
私はもちろん食後のデザートも忘れなかった。
「そう言えば、繭ちゃんと澪ちゃん、いつ帰ってくるんだっけ?」
何とはなしに思い出した話題を振る。
可愛い双子の姉妹である螢の姪たちは、数日前からどこかに出かけていた。
確か、小さい頃に行った秘密の場所がダムに沈むからその前に、と言っていたように記憶している。
けど、あまり詳しくは聞かなかった。
せっかくの二人きりの秘密の場所に私が介入するのも悪い気がしたから。
「んー……どうだろうな。しばらく滞在したら帰ってくるんじゃないか?」
螢ってば、あまり興味なさそうにそんな風に言っちゃって。
「寂しいでしょ? 二人がいなくて」
賑やかな二人の声……といっても主に澪ちゃんの声かな。
とにかく、そんな二人の声が聞こえないなんて、何かを忘れちゃったような気になるんじゃないかと思う。
だからこその私の問いに、螢は小さく苦笑して。
「はは、子供じゃないんだから平気に決まってるだろ? まあ少し家の中が静かすぎるように感じることもあるけどな」
「そっか」
「せっかくだし、楽しい思い出を残してきてくれればいいさ」
「ん。そうだね」
うーん、若いけど、しっかりおじさんやってるよね、螢。
保護者っぽさが板についてるというか。
私がしみじみそう思っていると、螢はいつの間にか真っ直ぐに真剣な眼差しを私へと向けていた。
心なしか、僅かに頬が染まって見えるけど……いったい何?
「なあ、若菜、今なら俺の家」
「お待たせ致しましたー!」
…………。
うわあ、何て絶妙なタイミング。
螢の言葉を遮るように現れた店員さんが、私たちが注文した料理をテーブルに並べてくれる。
「食後のデザート以外はすべてお揃いでしょうか?」
「あ、はい」
「ではごゆっくりどうぞ」
ごゆっくり、と言われても……。
ちらりと螢を見やれば、案の定何だか撃沈していて。
私が言うのも何だけど、螢ってちょっと間の悪いところがあるんだよね。
私はそこも含めて好きだからいいんだけど。
それにしても、何を言いかけたんだろう。
言いかけられると気になるよね……。
「ねえ、螢、さっきの……」
「え!? あ、いや、あれは忘れてくれ!」
「そ、そう?」
何でそんなに必死なの? 顔も赤いし……。
うーん、でも訊くなっていうなら訊かない方がいいのか、な?
何だかちょっと腑に落ちない私の機嫌は、食後のデザートによって簡単に持ち直すのだった。
幸せばかりは続かない、と、それは誰が口にしたフレーズだったか。
忘れてしまったけれど、翌日、螢からの電話によって届けられたその報せに、私は言葉を失った。
――繭ちゃんと澪ちゃんが行方不明になった、と。
彼はそう、告げたのだ。
二・了
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