なんで目に付いたかさえも。

……偶然、だよね、やっぱり。

そんな思いで答えれば、ふいにすぐ傍から声が届いてきた。


「興味があるなら、是非見学にどうぞ。これ、活動してる曜日と教室だから」


優しげな声をかけられ、はっとする。驚いて振り向けば、黒髪が艶やかな、随分と美形な男の子がこちらを見つめて微笑んでいた。

彼、は……。


「……と言っても、僕も新参者だから、あまり多く話せることはないんだけど。気が向いたら、来てくれると嬉しいな」


改めて言葉を重ねられ、同時に差し出されたメモ用紙に我に返る。条件反射気味にそのメモ用紙を受け取れば、彼はにっこりと笑みを深めた。


「おーい! 樹月、なにしてんだ。置いてくぞー」
「あ、ごめんごめん。今行く!」


遠く、少し離れた廊下の奥から、ひとりの男の子が手を振っている。呼んでいるのは、どうやら目の前のこの男の子らしい。軽く声を張り答えるその姿は、慣れたものだった。

というより。遠目になるから確信は持てないけど、なんか似ている気がする。呼ばれている目の前の男の子と、呼んでいる向こうの男の子。

それは、そう。まるで、ふたご、の、ような……。


「それじゃあ、またね」


もう一度優しい笑みを残し、そうして彼は、待っている男の子の方へと歩いていってしまう。笑い合いながら合流したふたりは、やはり似ているとそう思った。


「……はー、みた、名前? あんな美形、いるもんなんだねえ」


あたし、テニスやめて民俗学研究サークル入ろうかな。なんて、不純まっしぐらな友人の声もどこか遠く、わたしはただ渡されたメモ用紙を見下ろした。そこには綺麗な字で、彼が言っていた通りの内容が認(したた)められ……。

端に、小さく。

立花、樹月、と。書かれていた。


「いつき……」


なんだろう、なんでだろう。

わたし、あのひととは初対面のはずなのに。あんな美形なら、一度見たら忘れなさそうなものだから、初対面であることに間違いはないはずなのに。

なんでこんなに、懐かしいんだろう。

握りしめたメモ用紙を、ポケットにねじ込む。そうする時には、わたしの意志はもう、決まっていた。


「わたし、民俗学入ってみる」


茶化されるか冷やかされるか。そう思っていたわたしの内心とは裏腹に、友人はただ優しく、そっかと微笑んでくれた。

その優しさにこころの中で感謝して、もう一度あの男の子たちが消えていった廊下の奥を見つめる。気のせいか、視界の端を、紅い蝶がひらりと舞ってみえた。











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