とりあえず説明とかそういうのを基本面倒くさく思うわたしは、樹月がみおちゃんたちにこの村からの脱出法を話す間、千歳ちゃんと手を使った簡単な遊びをしていた。二回くらいちらりと視線を向けられたけど、そんなの無視だ無視。そういう細々したことは樹月にこそ向いている。

そんなわけで、話は朽木の仕掛けを解いて暮羽神社から脱出する道順まで進んだ。そこで樹月は蔵から持ち出した立花家の家紋風車と、他の家の家紋風車のある場所が書いてある地図をみおちゃんに渡す。樹月ってば役に立つ! お株上昇だよ、きっと。みおちゃんの中で。

細かいところはもちろんつっこまない。面倒だしというのもあるけど、樹月相手だとだいたい「樹月だし」で片がつくから。

朽木の仕掛けを解こうにも、必要になる家紋風車はあとみっつほど足りてない。探しに行ってから朽木に向かった方が効率いいよね。ほら、地図もあるし。

そんな風に纏まりかけた話を、お構いなしに壊してくださったのは、なんとまゆちゃんだった。


「澪……。私、疲れた……」


うえええいっ!? え、ちょ、今!? 今言うの、それ!?

いやいや、幽霊なんて特異体質なわたしらと違って生身ですしね、精神的にも肉体的にも追い詰められて疲れてきてるといってもまったくおかしなことじゃないけどね。

……ものすごい、出鼻を挫かれた感が否めない……。


「お姉ちゃん……。あ、あの、その朽木という場所は、少し休めるようにはなってますか?」
「どうだったかな……。そういうことは名前が詳しいと思うけど」


……はは。だってこの村狭いし。遊べる場所とか限られるから、行けそうなところには行っておきたいじゃんか。

みんなを巻き込んで探検していたことはもちろん、ひとりでだってあちこちうろうろしていたわたしは、何気に隠密行動も得意だった。だってほら、見つかったら怒られるし。だったら見つからなければいいって思うのは当然の思考だと思うんだ。

にっこりと、満面の笑みなのに何故か不必要なほどの重圧を含んだ樹月の笑みに促され、背筋に微妙な汗が流れる感覚を覚える。いや、実際にはもう汗なんてかきようがないんだけど。というより、樹月、そういうところ過保護だったんだよなあ。下手に怪我してきたりしたその時には……うん、ちょっとしまっておこう、その思い出。


「ゆっくりするには不向きじゃない? なにせ大きな木に空いた洞穴みたいな場所だし」


床は地面、周りは木。とてもじゃないけど自然過ぎて寛げるような場所じゃあない。野宿道具でも持っていけば話は別だけど。

そう思って答えるわたしに、みおちゃんはそうですかと視線を伏せ、それから迷うようにまゆちゃんを見た。……朽木が絶対安全とは言えないけど、連れ歩く方が大変……かなあ。残りの家紋風車がある場所もある場所だし。

まあ、今のこの村に絶対安全な場所なんて存在しなそうだけど。


「……そのくらいなら、大丈夫。澪、どのみち朽木に行くのなら、私、先に行って休んでいてもいい?」


うお、見かけによらず結構自然大丈夫な性質?

ぽつりぽつりと紡いだまゆちゃんの言葉に、驚いた様子でみおちゃんの目が見開かれる。うん? 再会したばかりのお姉さんと一時的とはいえ別れるのが心配なのかな。まあ、まゆちゃんにはちょっと前科あるし、それは心配にもなるか。


「よし、じゃあ、わたしがまゆちゃんに付いてるよ」


憑いてるよ、じゃあない、決して。

任せなさいと胸を叩くと、なんか一斉に不安そうな視線を向けられた。……あ、やだ、わたしも前科持ちだ。


「……名前ひとりだと心配だし、僕と千歳も一緒にいるよ。睦月はみおさんを手伝ってあげて。それでどうかな」
「あ、はい。それじゃあ……よろしくお願いします」


ぺこりと律儀に頭を下げるみおちゃんは、樹月の提案を受け入れたわけだ。確かにさ、わたし前科あるけど、なーんか不満ー!

……まあ、いいけどね。

いつまでも引きずっても仕方ないと、すぐに気持ちを切り替え、とにかく急いでこの村を出るべきだからと、さっさと立花家を後にする。そうしてわたしたちはまゆちゃんを連れて朽木へ、みおちゃんと睦月は残りの家紋風車を探しに、まずは一番近い桐生家へと向かって行った。

そう言えば、あの噂の真相ってどうだったんだろう。何もなかったならいいんだけど。

そんなことを思いながらみおちゃんたちを見送り、わたしたちも朽木を目指す。その道中、気になってはいたけど聞きそびれてしまっていたことを、まゆちゃんに問いかけてみることにした。


「ねえ、まゆちゃん。あのさ、あの時なんて言ったの? それと、いったいどこに行ってたの?」


聞き取れなかった言葉と、いなくなっていた姿。その両方を疑問にすれば、まゆちゃんは「え?」と小首を傾げた。


「……私、何か言いましたか? あの、突然名前さんが倒れられて……声はかけたんですけど、目を覚ましてはくれなくて……。澪が近くにいるって言っていたから、とにかく澪を呼んでこようと思ったんです」


……そう、なの?
え、何、わたしが間抜けだったっていうそんな話?

いやでも……なんだろう、なんだか釈然としないような……。どこか窺うようにわたしを見ているまゆちゃんに、嘘を言っている様子もないし、なんか混乱する。

なんていうのかな……噛み合わない、というか、うーん……。

ぎしり、と、どこかで何かが軋むような気さえ覚えながら、それでもとりあえずわたしたちは朽木を目指すのだった。











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