ひょいと上半身を外に出し、扉から感じたままを告げれば、何言ってんの? って目で樹月に見られた。いやだってそうとしか思えないし。わたしの頭、一応正常だし。


「……あれ、本当だ」


樹月も中に引き入れて確認させてみたけど、やっぱりというか当然というか鍵は開かなかった。ほーら、わたし、正しい!


「だから言ったじゃん。てかさ、これ……」


ぞわり。
え、ちょ、なになに!? 急にすんごい寒気がし始めたんだけど!


「どうせわかるなら、こんな寒気なんかより名前の温度がわかれば良かったのに」
「そーだね。わたし、この状態で千歳ちゃんに会っても、ぷにぷにほっぺを体感できないのが辛いや」
「……名前って本っ当……いや、いいや、やっぱり」


なんだこら、途中で止めたら気になるだろ! て、とにかく脱線しまくっている場合じゃなく、わたしたちですら感じる寒気って、なんかいろいろ危険じゃない? これ、無理にこじ開けでもしたら、わたしたち死ぬかも。いや、死んでるけど。


「とりあえず、ここを開けるのは無理そうだね」
「んー、となると、みおちゃんには桐生家からまわってきてもらうしかないか」


わたしあの家イヤなんだよなー。村がこんなことになる前から、あの家っていい雰囲気しなかったし。てか天井から人形吊す趣味とか、いくら人形師がいた家だからってありえない趣味でしょ。

……そういえば、あの家、どうして殺すのって迫ってくる女の子と人形の亡霊が出るって噂、あった気が……。

……噂、だよね。うん。


「というわけなんだけど、どうしようか、みおちゃん。わたしたち一緒に行こうか?」


とにかく一度外に出てみおちゃんに状況を報告。あえて怖がらせる必要もないかと、あの噂については黙っていた。


「あの、できれば、名前さんたちは先に姉を捜してもらえませんか? 私なら射影機がありますけど、姉は……」


すごいなー、みおちゃん。振り回されても一貫している姉想いさが、なんだか睦月とかぶるよ。いや、睦月と一緒にしたらみおちゃんに失礼か。

きょうだいってそういうものなのかな。いいなー、そういう絆? とか。


「わかった」


まあわたしたち幽霊だし、実際どれほど役立てるかはわかんないけど。でも律儀にお願いしますと頭を下げるみおちゃんに、できるだけのことはしてあげたいと思った。

この村の犠牲者をこれ以上増やしたくないし、ね。


「姉の名前は繭といいます。見た目は私とそっくりなんですが……その、姉は足を怪我していて……」


なるほど。なおのこと心配ってわけね。

…………。

え、ちょ、怪我人! うろうろするなよ!

……ってつっこんだら駄目なんだろうなあ。家庭の事情かもだし。


「ん。生きてるひとなんてたぶんみおちゃんとお姉さん……ええと、まゆちゃん? くらいだろうし、きっとすぐ見つけられるよ!」


だいじょうぶ、だいじょうぶ。と安心させるように、とんと自分の胸元を叩けば、みおちゃんは少しだけ安堵したように微笑んだ。

うん、やっぱりかわいい。その笑顔、曇らせちゃ駄目だよね。


「じゃあ、私は向こうの家からまわっていきます。またあとで」
「うん、気をつけてね」


ありがとうございます。そう一礼して駆けて行くみおちゃんの背が桐生家の扉に飲み込まれるまで見送って、それからわたしたちも顔を見合わせ頷きあった。


「よし、じゃあまゆちゃん捜そうか。もしかしたら千歳ちゃんにも会えるかもだし、まあついでに睦月にも会っちゃうかもね」
「……うん」


おわ、つっこみが来ない! ……て、まあそれもそうか。しおらしい樹月なんて気持ち悪いと怖いを足して倍増させた感じだけど、今だけは我慢してやろう。

そうして溜め込んだ我慢値は、睦月にお見舞いする一撃に上乗せするんだ。

そんな決意を胸に秘め、わたしは樹月ともう一度立花家へと入り込む。なんかちょっといろいろ雰囲気とか変わっちゃった玄関先は、それでも自我を取り戻したのがついさっきなせいか、懐かしくもなかった。

生前、これでもかと遊びに来てたしね。


「さて。じゃあ片っ端から見て回りますか。まゆちゃんはわたしたちのこと知らないんだし、下手に声かけたら驚かれちゃうだろうしね」


大声で呼びかけた方が早いかもだけど、知らない声に呼ばれたら警戒するだろうし、場所が場所だからすんごく怖いとも思う。

……わたし、いかにもな見た目、してないよね?


「……名前」
「ん?」


どこかに姿見とかなかったっけ、とか、あったとしてちゃんと映るんだろうかとか、そんなことを考えていたわたしに、ふと樹月から声がかかる。顔を向ければ、樹月はじっと廊下の奥を見つめていた。


「……僕、いかないと」
「は?」
「呼んでるんだ」


え、ちょ……誰が?

わたしにはなんにも聞こえないんだけど。怖いんだけど。むしろ頭がどうかし……げふんげふん。


「睦月が、いる。ここには睦月がいるんだ」


……双子的超常能力?
て、ぼけてる場合じゃなくて、睦月って、あの睦月だよね? わたしに殴られる予定の。







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