認めないと。進まないと……守れない。

意地でももう繰り返させたりなんかしないから、わたしは進む。たぶんね、生きていたあの時よりもきっと、今のわたしにならできること、あると思うんだ。皮肉だけどね。


「さて、嘆くのは後ね。わたしもう行かないと」


離れるのは樹月から。待ってあげようじゃないか。泣き顔なんて、見られたくないでしょ?

少し間を置いてから離れた樹月は、不思議そうにわたしを見つめた。


「行く、って、どこへ?」
「みおちゃんのとこ」
「……みお、ちゃん?」


誰? と首を傾げる樹月の反応は正しい。


「この村に迷い込んじゃったっていう女の子。双子なんだって」
「双子の女の子……あ」
「ん? 樹月、知ってるの?」


なんで? 接点なんてなさそうなのに。今度の疑念はわたしから。それに樹月は確かめるように言葉を紡いだ。


「えーと、もしかしてその子、八重に似ていたりしないかい?」
「あ、そうそう。わたし八重だと思った」


答えれば納得したらしく、この蔵にみおちゃんが来たと樹月は話す。その時は八重が紗重を迎えに来たんだと思って会話したらしいんだけど、みんなの死を理解した今ならあの子が八重じゃないと理解できるとのこと。

同時に、わたしがしようとしていることも理解してくれたらしい。


「名前はそのみおさんを助けに行くつもりなんだね」
「うん。……今度こそ、諦めないよ。止めてみせる、絶対」


その覚悟をより強めるために、わたしはここに来たんだ。わたしが失ったものの大きさを、もう一度、思い知るために。

もう誰にも、あんな気持ち味わわせたくない。味わわせてたまるか、って。そう思う。


「そう。……なら、僕も行かないとね」
「へ!?」


え、行くって……樹月が?


「名前が頑張ってるのに、僕だけこんなところで立ち止まってたら駄目だと思うし……それに、もしかしたら、会えるかも、って思うんだ」


会える……。そんな風に寂しそうに悲しそうに想いを馳せる相手なんて、ひとりしかいない、よね。


「そっか。……うん、そうだね、会えるかもね。そしたらわたし、一発殴ってあげよう」


樹月に向けたかった分も合わせて二倍でいこう、うん。こころの中でそんな決意をするわたしに、樹月は小さな苦笑を浮かべていた。

相変わらずだなあ、なんて呟かれるけど、殴られる方に理由があるんだからね。樹月も、睦月も。もっとちゃんと話し合わなければいけなかったんだよ、きっと。

諦めるくらいなら、なんでみんなが泣かなければいけなくなるわけ。結果がどうであってもきっと、諦めない方が納得できた。選択肢を狭めるのは、いつだって自分自身なんだから。


「じゃ、行こうか。みおちゃん、お姉さん見つけられてるといいけど」
「そうだね。……あ、そうだ、ちょっと待って、名前」


すっかり出発する気満々だったわたしは、さっさと蔵の出入り口の方へと向かう。どこからだって出られるけど、ついちゃんと扉の方を選んじゃうのは、やっぱり無意識下のクセみたいなものなのかもしれない。

そんなわたしは樹月の呼びかけを背に受け、足を止めると肩越しに彼へ振り向いた。見れば、樹月は蔵の奥の方で何かを拾っているようで。それを終えるとようやくこちらまで歩いてくる。

歩くって感覚もないのにそうしちゃうのも、たぶん生前の名残だろう。生きていた証でもあるし、失いたくないことでもあるか。


「なに持ってきたの?」


問えば、樹月は一枚の紙切れとひとつの風車をわたしに見せる。あれ、これって……。


「村から出るには必要になるだろうから。立花家の家紋風車は僕が持っていたんだ」


へー。……なんで?

ああ、そっか、八重と紗重が使えればってことだったのかな。それかもしくは真壁さんたちか。

どのみち使われることがなかったから今ここにあるんだろうけど、でも確かにみおちゃんたちを逃がすには必要になる道具だろう。紙切れの方は残りの家紋風車のある場所が描かれた、この村の地図みたい。……それこそよく持ってたよね、樹月。

ちなみに家紋風車は全部で4つ必要になるわけだけど、今はまず先にみおちゃんとの合流を優先すべきかな。ということで、立花家の家紋風車とその地図は樹月に持っていてもらって、わたしたちはみおちゃんと合流すべく、彼女たちを捜すことに決めた。










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