「あれ」


ふと。

町を歩いていて目に止まったその姿に、私は一度目を瞬き。

次いで、すぐさま呼びかけた。


「おーい! 優雨!」










序 「はじまりの、はじまり」










私の家系……というには語弊があるけど、まあとにかく私の母方の実家は代々神主を務めていて。

だからというのも妙だけど、麻生の家とは交流があり、そこから麻生優雨と知り合った私は今では友人と言えるくらい友好関係を築けていた。


「若菜、久しぶりだね。元気だったかい?」
「うん。優雨は?」
「元気だよ」


何気ない挨拶から、優雨の恋人の怜さんも息災だと聞いたり。

私の近況を話したり優雨の近況を聞いたり。

つい弾ませてしまった会話に、しばらくしてふと我に返る。


「あ、ごめん。つい話し込んじゃって。優雨、何か用があったんじゃ……」


こんな町中で会うってことは、もしかして怜さんとのデートの途中とかだったかな。

怜さんとも知らない仲じゃないけど、邪魔をするのはさすがに悪い。

そう考えて焦る私に、優雨は苦笑しながら首を振った。


「いや、今日は仕事仲間に付き合ってたんだ。用が済むまでどうしようかと思ってたところだし、むしろ助かったよ」
「そう? なら良かった」
「それより若菜の方こそこんなところで話し込んでいて大丈夫かい?」
「あ、私は大した用で来てるわけじゃないから」


互いに答えて笑みを交わし合ったその時。


「おーい、優雨! 悪い、待たせた……って、あれ?」


近くの店から現れたその人が、私の姿を目に不思議そうに目を瞬かせた。





何でもないようなこんな偶然の出会いが。







私と螢の、大切な始まり。













序・了


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