床にぎっしりと詰め込まれるかのように横たわる、体中に刺青を刻まれた女性たち。

床だけでは足りないとばかりに数人は壁に穿たれていた。

みんな、みんな、体中に余すことなく刺青を刻まれ、その手足が大きな杭で穿たれていて……。

こんな……こんなの、おかしい。

ひとに、こんなことができるなんて……。

くらりと目眩を感じた私は、それでも螢や怜さんに迷惑をかけないよう踏みとどまる。

その間に、辺りをぐるりと照らしていた懐中電灯の光が、一点で止まった。


「ねえ、あれ!」


怜さんの言葉に反応してしっかりとその場を見やれば、そこには他の女性たち同様穿たれた女性と……。

男のひと、が、横たわっていた。


「要さん……?」


彼が、要さん……。

じゃあその隣が……。

そう考えた瞬間、私の頭の中に映像が流れ込む。

白黒のそれは、みたことのあるもの。

要さんの最期と、零華さんの痛み。

……この屋敷の、さいご。

自動的に流れた映像が終わり、視界が元に戻ったその瞬間。

ぞくり、と、冷たく鋭い悪寒が体中をはしった。

見れば、私達の目の前で、徐々に徐々に零華さんを穿っていた杭が浮き上がっていくところで。



――これは、だめ……っ!



頭の中で響く警鐘。

幸い足を竦ませることがない程度にはこういった感覚に慣れていたため、私はすぐに行動に移る。


「螢、怜さん、逃げてっ!」


たぶん逃げきることはできない。

けど、何か対抗するにしてもここから出た場所の方が広いし、逃げ回ることもできる。

私に促されて押されるまま二人は外へと駆け出してくれ、私たちは三人揃ってあの灯篭がゆらめく場所まで出ることができた。

そのまますぐに石造りの建物から離れて様子を窺えば、さほど待つこともなく零華さんが姿を現す。

零華さん……。

呟く暇もなく、零華さんはすぐに鳥のような形をしたものの力を使って宙へと浮かび上がり、そのままこちらへと急降下してきた。


「若菜っ」


それを横手に跳んで何とか避けると、私のいた場所の付近からカメラのシャッター音が響く。

振り返れば、少しよろける零華さんと、彼女に向けてカメラを構える怜さんの姿が目に映った。

射影機……。

現実の世界で螢と見つけたそれを、こちらでは螢と怜さん二人ともが手にしていたらしい。

何故それがここにあったかは謎だし、結局優雨に送った手紙の返事も永久に届くことはない。

けど、霊たちに対抗するにはあれは充分すぎるほどの武器になる。

身を守るための大事な武器だ。

……私は別の手段があるから大丈夫だけど。

さっき別行動した時に確認したけど、夢の中でもちゃんと符を持っていた。

効果があるといいんだけど……。

そう思いながら邪を追い払うハジャ符を零華さんへと飛ばす。

ハジャ符は零華さんの腕に貼り付くと、炎へと姿を変えて襲いかかった。

けど……その炎が消えても零華さんは平然とその場に存在していて。

……まったく効かなかったってことはないだろうけど……。

とにかく次の手を考えていると、突然周りの空気が重くなる。

これは……。


「螢、怜さんっ、とにかく逃げて! 零華さんに触れられちゃ駄目っ」


声を張り上げ二人に告げた。

同時に私も零華さんから距離を取るよう足を進める。

でもその足も……ううん、足だけじゃない、体中が重くて思うように動けない。

これ……障気だ。







[*前] [次#]
[目次]



人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -