躊躇うような私の問いに、螢は小さく苦笑した。


「……結局他に方法が思い付かなかったからな。駄目元でやってみるかって思ってたんだ」


と言ってもまだひとつしか見つけていないが、と、螢が見せてくれたそれは大きな杭。

こんなものをひとに穿つだなんて、とても信じられない。

この屋敷のひとたちは巫女を……零華さんたちを、何だと思っていたの。

螢の持つ刺青木に強い憤りと嫌悪を抱くと同時に、螢が実行に移す前に合流できたことに安堵を抱く。

一緒に行動できれば何かあっても力になれると思うから。

こういう、空気の淀んだ場所なら尚更。


「あ、そうだ、螢。これなんだけど」
「? これは……鏡?」
「うん、蛇目」


私はさっき拾った鏡の破片を螢に見せて簡単に説明をする。

これがないと屋敷の奥には進めないんだけど……。


「……割れてる、よな、これ」
「そうなんだよね……」


たぶん屋敷の中にあるとは思うんだけど……さすがにその場所まではわからない。

うーん、私の霊力もまだまだなのかなあ……。

……まあ、これだけ色々わかっただけで充分だとも思うけど。

だいたい、普通に日常生活を送る上ではあまりいい思いをした覚えもないし。

これ以上高まって欲しいとも思わない、かな。


「手分けして探した方が効率がいいとは思うけど……」
「それは駄目だ」


……やっぱり。

傍にいる、が約束だったものなあ……。

……そうじゃなくても、私、方向音痴だし。

仕方ない、効率は悪くなっちゃうけど、一緒に……。


「……あら? どうして二人がここに?」


あ、グッドタイミング。










丁度いいタイミングで私たちの前に現れたのは怜さんだった。

怜さんに一通りの説明をして、私たちはまず砌の鏡の破片を集めることで同意する。

いくらなんでも三人で一緒に行動するのは効率が悪いし、かといって私と螢が一緒に行動して怜さんだけ別行動、なんて、そんなことできるはずもないから、ある意味必然的に三人共別々に探すことになった。

螢があくまで不服そうだったのは、この際気付かなかったふりをする。

ごめんね、螢、気持ちは凄く嬉しかったんだけど……。

胸の内で謝って鏡の破片を探しに向かう。

あちこちうろうろしていたら、映写機のある部屋で一枚見つけることができて、それから他の破片を探しに行こうと移動したところで怜さんと螢と偶然鉢合わせたんだけど……道に迷っていたのは秘密にしておきたい。

二人に話を聞いたところ、それぞれが破片を見付けることができたみたいで、組み合わせてみたら丁度一枚の鏡になった。

……怜さんが二枚見つけてきてくれたから、破片は全部で五枚あったことになる。

そのすべてに零華さんの想いが、詰まっていた。

……零華さんの、想い……。

全部の破片が集まった途端、不思議なことに鏡はもとの綺麗な形を取り戻し。

それを私は胸元でぎゅっと抱きしめる。

零華さんの想いを、抱きしめるかのように。

零華さん……。

この屋敷に囚われ亡くなられたひとたちを想うと、零華さんに手放しで同情することはできないけれど。

……澪ちゃんのことだって、あるから。

でもそれでも。

救われたいのは、救われるべきなのは、彼女も同じだと思う。

彼女も元は被害者なのだから。

誰しもが誰しもの事情を抱えて生きているのだから、たぶん本当は完全なる悪なんていないんだろう。







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