ちょっと意地が悪いかな、なんて思ったのに……思わぬ反撃を受けちゃったみたい。
夢の中のはずなのに、顔に熱が集まっていくのがわかった。
「え、と……あ、ありがとう」
な、何とかお礼だけは言えたけど……何だか気恥ずかしい。
言った本人の螢だって照れたように顔を赤くしてるし……しまらないけど、それが螢らしい気がして何だか気持ちが暖かくなる。
その気持ちから小さく笑みを刻もうとして、今はそれよりもしなければならないことがあると思い至った。
こういうほのぼのとしたやりとりは全部終わらせてからにしないと。
その時は……澪ちゃんも一緒に。
「ねえ、螢。あのね、この夢を終わらせる方法……ううん、巫女である零華さんの望み、私、わかった気がする」
「……え?」
穏やかな空気を一変させるように真剣な眼差しで螢を見上げて。
しっかりと淀みなく螢へと告げる。
私の知った、感じた、すべてを。
「……もしかしたら優雨のお蔭なのかもって勝手に思ってるんだけど……私ね、この家に招かれた時に視て感じたの。……零華さんのみたものや、感じたものを」
目を閉じるとまるで私が体験したかのように鮮明に蘇ってくる光景。
彼が……要さんが、命を奪われ事切れてしまうその瞬間。
直前に零華さんの名前を懸命に呼んだ彼の姿も、倒れゆく彼をただ見つめることしかできなかった零華さんの想いも。
全部、ぜんぶ。
涙が溢れそうなほどに苦しいこの想いは悲しみは、言いようのない怒りや憎しみは……私のものじゃなくて、零華さんのもの。
わかっているから飲まれないように私は一度息を吐き、それから改めて言葉を重ねた。
「彼女は……もう、みたくないの」
「みたくない?」
そう、みたくない。
反芻する螢に頷いて、私は思う。
零華さんは、自分の柊をその目に刻みこの闇を生み出してしまった。
資料にあった破戒と呼ばれる状況が、今この屋敷を飲み込む闇の正体。
この闇を祓うには……。
「私達ができること……しなければいけないことは二つ。ひとつは零華さんに要さんの死を見続けることをやめさせてあげること。もう、みなくていいんだって、その目を閉じてあげなきゃ……」
「もうひとつは?」
「螢が持ってたこの家の地図に、広大な海のような場所がかかれていたでしょう? そこがね、多分……此岸と彼岸の境になると思う」
「……涯」
私の言葉に螢が呟く。
どうやら私の言いたいことをわかってくれたみたい。
私たちは優雨の部屋で別れる前に、簡単に怜さんが持っていた資料を見せてもらったり怜さんがこの家で体験したことを聞かせてもらったりした。
その内容を総合すると、たぶん、あの鎮め唄の通りにするべきなんだと思う。
あの唄にあったように零華さん……巫女を、涯へと送る。
それが、本来の儀式の在り方。
ならその通りにすれば、終わりは訪れるんじゃないかな。
私たちにも……零華さんにも。
「……なるほど。確かにそっちの方が説得力あるな」
納得した様子で頷いてくれる螢に、ふと気になった私は、もしかして、と口を開いた。
「……ねえ、螢……あの、刺青木、集めたの?」
感覚的に違う気がしていた解決法は、あの映像をみた後だからはっきりと違うと言える。
だって……零華さんの手には、しっかりと杭が穿たれていたのだから。
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