電話をした理由は当然の如く、澪ちゃんのことにある。
以前手紙を送ったその返事が届かず、直接問おうと電話をしたのだ。
その時電話口に出たのは、優雨の恋人であり一緒に暮らしている怜さん。
怜さんは螢に教えてくれたらしい。
優雨が、怜さんの起こした交通事故で亡くなってしまったということを。
……私も螢もその場にいたわけじゃないから、状況なんて何もわからない。
だから怜さんを責める気なんてまったくないし、責める権利だって私たちにはないとわかっている。
きっと、そのことで一番辛い想いをしているのは他でもない、怜さんだろうから。
だからというわけじゃないけど、怜さんに対する恨みや憎しみはまったくなくて、でも大切な友人を亡くしたという悲しみは私の中を強く強く蝕んで。
否定したくてできなかった事実に、私の目の前は真っ暗になり、そして立っているだけの力も失いその場に膝から崩れ落ちた。
「若菜!」
すぐさま私の名前を呼んで、螢が駆け寄ってきてくれるけど。
私はそれにうまく反応することもできずにただ愕然と打ち拉(ヒシ)がれていた。
だって……優雨が……優雨が、そんな……。
もう会えないなんて……言葉を交わすことも、笑いあうことも、触れ合うことも何ひとつ叶わないなんて……。
そんなの、そんなの信じられない。
「若菜……」
ふいに、優しい温もりが私を柔らかに……けれどしっかりと包み込む。
ほとんど条件反射のようにその温もりを手繰り、そこに手を添えれば。
私の体に絡められたそれの力が少し増した。
ああ、そうか。
――私、螢に抱きしめられてるんだ。
螢だって辛くないはずないのに。
苦しくないはずも、悲しくないはずもないのに。
私を、宥めてくれている。
それを酷く申し訳なく思うのに、私の頭はうまく働いてくれなくて、私の口は気の利いた言葉ひとつ吐き出してはくれない。
どうしようもなく、ただただ茫然と自我を喪失したような姿のままでいる私に、螢は静かに言葉を紡いだ。
「……泣いていいんだ、若菜」
泣いて、いい。
その言葉は私の中に深く深く浸透してゆき……。
ああ、私……泣くことすら忘れていたんだ。
そう、気付かせてくれた。
あまりに悲しすぎて事実を事実とうまく受け止められなくて。
……泣いてしまったら、受け入れなくちゃいけない気がしていたのかもしれない。
「……けい……」
泣きたいのは、螢だって同じ。
わかってはいるけど、胸の内から溢れる熱く苦しい感情が邪魔をして、螢を気遣えるだけの余裕が私には持てなかった。
ごめんね、螢。
本当にごめんなさい。
傍にいてくれてありがとう。
……泣かせてくれて、ありがとう。
声を殺して泣き続ける私を、螢はずっと、強く抱きしめてくれていた。
六・了
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