まさか鍵を開けたまま出かけてるのかな。

不用心だなとは思うけど、螢、時々抜けたところあるし、そんなに驚きはしなかった。


「……お邪魔します」


小さく断り、中に入る。

当然真っ先に視界に入るのは玄関で、そこには……。


「あれ? ……螢、いるのかな」


螢が普段履いている靴が、ちゃんと並べられていた。

と、いうことは、螢は中にいるってこと?

でも呼び鈴に応じてこなかったし……。

不思議に思い首を傾げながらも、私はとにかく奥に向かうことにした。

もう慣れた廊下を進み、その先で出迎えた扉を開け居間へと踏み入る。

とりあえずソファでも借りようかとそちらへ向けば。


「……螢?」


いるかも、とは思っていたけど、ソファに腰掛けたその後ろ姿に少しばかり驚き思わず声を僅かにひそめて呼びかけた。

すぐに聞こえないかもと抱いた不安は杞憂だったらしく、螢はゆっくりとこちらを振り向く。

……え、あれ……。


「……若菜」
「あ、ごめんね。その、一応呼び鈴鳴らしたんだけど……勝手に入って来ちゃった」
「ああ、そうか……。すまない、気付かなかった」
「ううん、そんなの全然気にしてないよ」


……本当は少し寂しいけど。

でも、そんなことより。


「螢……どうかした?」


私に、というよりも呼び鈴の音にも気付かなかったことも妙だけど。



……今の螢、何だか酷く元気がない。



悲しそう、にも見えた。



だから問いかけてみたんだけど、それに対して逆に螢に驚かれてしまう。


「若菜、もしかして知らないのか?」


……知らない? ……って、何を?

何のことかわからず首を傾げれば、螢の表情が苦しそうに……辛そうに歪んだ。

何が、あったの?

明らかに何かがあったとしか思えないその表情に、知らず鼓動が早まる。

同時に思い浮かぶ、今日みたあの夢。

どうして今ここであの夢が思い起こされるのか。

わからないフリをしたかったけど、心のどこかで悟ってしまっていた私は、震える体をただ強く抱きしめて思う。

気のせいだ、と。

……ううん、願っているんだ、気のせいであって欲しいって。

そんな私の内心に気付かないまま、螢は声を低くし言葉を紡ぐ。




「優雨が……死んだらしい」




うそ……。


「嘘……そんなの……だって、そんな……」


意味を成さない言葉の羅列。

ただ告げられたそれを真実だと受け止めたくなくて、真実だと思いたくなくて、否定したくて首を振る。

嘘だと繰り返す私に、螢は先程優雨の家に電話をしたことを教えてくれた。







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