それはただの夢なんかじゃない。

白い雪の降る、古い家屋のその夢は。



――眠りの家は、伝染する。



そう、夢の中にみた相手までをもその夢の中に引きずり込む。

私たちが調べた伝承には、確かにそう記されていた。

違っていて欲しい、螢までそんな……。

さっきまでの螢と同じ表情を今度は私がしていることに気付かず、ただただ願うように螢を仰ぐ。

けれどそんな願いも虚しく、返ってきた答えは首肯。

そうだ、と、螢は告げた。


「……夢の中で澪を見つけた。澪は牢のような場所に閉じこもってただ謝り続けていて、俺に気付いてはくれなかったが……」


謝る先は、繭ちゃん。

起きている時と同じ、繰り返される贖罪。

お姉ちゃん、ごめんなさい。

その言葉を繭ちゃんが望んでいるかは、澪ちゃんには届かない。


「澪を見つけたところで、目が覚めてしまったんだが、たぶん俺はまたあの夢をみると思う」


眠りの家に、招かれてしまったから。

螢はきっと、夢の中でも澪ちゃんを助ける方法を探してみるつもりなのだろう。

だったら……。


「螢、私も……」
「駄目だ」


…………。

え、即答?


「まだ何も言ってないのに」
「最後まで聞かなくてもわかる。若菜のことだから、どうせ眠りの家に招いて欲しいってところだろう」
「う……」


……螢が眠りの家の夢をみてるなら、そこで私のこともみてもらえたら私もその夢に招かれると思うんだけど……。

そうすれば、一緒に澪ちゃんを助ける方法を探せて良いのに。

何で駄目って言うかなあ、と不服から口を尖らせれば、螢は小さく溜息を吐き。

困った様子で頭を掻いた。


「若菜なら絶対そう言うと思ったから言いたくなかったんだ」


……もしかして、巻き込みたくないって、そういうことだったの?

そんなの……。


「今更だよ。澪ちゃんのことは私だって助けたいし、それに、螢の背負うものは一緒に背負いたいの」


だって、恋人、でしょ?

ひとりで抱え込むなんて、そんな悲しいこと、しないで。

強い想いを乗せた眼差しを向ければ、螢はしばらく黙ったままその視線を受け止め。

やがて小さく息を吐いた。


「……わかった。意識して招けるものかはわからないが、若菜を招けるよう意識してみる。ただし」


ただし?




「俺から、絶対離れないこと。絶対に無茶はしないでくれ」




……どうしよう。


「螢、珍しく純粋に格好良い……!」
「珍しくって、お前な……」


あはは、ごめんね。

へたれてないと何だか螢っぽくなくて。

でも。


「ありがとう。私、頑張って螢を守るからね」
「い、いや、それ逆だろ」


だって螢、霊感ほとんどないし。

確かに力や体力じゃ及ばないけど、眠りの家が必要とするのって、そういうものじゃないと思う。

あの射影機を拾った家を顧みれば、簡単に想像がつく。

けど、何だか螢が微妙そうな表情を浮かべているから、そこまで言うのは止めておくことにした。

どのみち、話は眠りの家に招かれてから、だよね。










五・了



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